第80話 騎士は動き出したのです(ジェード視点)

何故ウィル団長がここに……。

シグルド団長と仲が悪いと認識していたが…



「なぜ俺がここにいるのかわからないって顔してるなぁ。答えはひとつ、姪っ子……アリスに少しばかりだけど剣術を教えたのは俺だから君の話を聞いてみたくてね」


「…ウィル、いくら人払いをしたといっても王女殿下を呼び捨てにするのは不敬だ」


「相変わらず頭固いねぇシグルドは。叔父の特権だからいいの」


「けれど―」


「はいはい、そんな話聞かせる為にこの子呼んだんじゃないだろ?」


「それはそうだが…」


人前ではあれだけ犬猿の仲である二人が落ち着いて会話をしているだけでも驚くと言うのに、他愛ないやり取りをする姿はまるで旧知の友の様だ。



「あの……お二人は、仲がいいのですか?」


思わず尋ねて見ればウィル団長は目を瞬かせた後、悪戯っぽく笑って見せる。


「いんや、俺こいつの事嫌いだもん。融通聞かないし真面目すぎるし、大人げないしやたら強いし黙ってれば見てくれはいいし紳士だし女子供に優しいし稼ぎもいいし」


嫌いと言う割に途中から賛辞が入ってるのは何故だろう。


「ウィルとは幼馴染だからな。意見が合わない事がほとんどだが変えがたい友人だ」


「うっわ、野郎に言われても嬉しくねぇっての。お前のその真っ直ぐな物言いも嫌いだわ」


そう言ってウィルは気まずそうに視線を反らすがどう見ても照れているだけのように見える。


「なるほど……ウィル団長は素直ではないのですね」


「嫁の前だと驚くほどに素直だがな」


「だぁーっ!!うっさいわ!いいから座れ!あとこの事は絶対誰にも言うなよ!?」


へらへらとした口調は何処へやら、ウィルはテーブルをバンバンと叩きながら座るように促す。

彼の耳がほんの少しだけ赤くなっているのでこれもおそらく照れ隠しなのだろう。

大人しく椅子に腰掛けると団長二人と向き合う形になった。



「で、なんでまたアリスとダニエルに決闘申し込まれたわけ?その後、陛下に呼び出されて何て言われた?珍しくシグルドが気を遣ってるんだからさっさと吐いちゃいなよ」


「………個人的なことなので」


「その個人的な事が仕事にまで影響を及ぼしているからこうして話をする場をもうけたのだが?」


「それは……申し訳ありません」



団長達の言葉はもっともだ。

大事な任務を任されている以上、公私混同してはいけない。


「……話せないか?」


「…詳しくは。けれど、私は迷っているのだと思います……二つの物事を比較して、片方を諦めたはずなのに諦めれきれずにいる」



アリスを拒絶すると言う答えを出し、その想いをはね除けた。

なのに諦めきれない自分がいて一度決めたはずのものを覆そうとしてくる。

自分がこんなにも優柔不断だとは思わなかった。

アリスが婚約すると言う言葉を聞いて今度こそ諦めがつくと思ったのに、私の諦めの悪さは悪化していた。

それどころか『まだ間に合う、今からでも想いを告げてしまえ』という思考まで現れる始末だ。



「二つの物事を比較してどちらかを選んだつもりが片方を諦めきれない、と言うことか」


シグルド団長の言葉に頷くと彼は目を瞬かせてこう告げた。


「両方譲れないのならば両方選びとればいいだろう」


「シグルドの言うことも一理あるねぇ。ひとつしか選べないなんて決まってないし選択肢なんてそれこそ無限にあるだろうから、諦められないなら諦めなくていい道を探したらどうだい?」


「そんな都合のいい事は…」


「ならばお前は諦めなくてもいい道を模索し、試し尽くしたというのか?」


「……いいえ」


「ならばまずやってみろ、やる前から諦めるなど怠惰なのではないか?待っているだけで欲しいものが得られると思うな、そのような愚か者は騎士団に必要ない」


シグルド団長の言葉に私は不思議なくらい納得してしまう。


確かに、悩むだけ悩んで私は何一つ行動に移していなかった。

騎士団の任務で私に何かあれば私を想ってくれるアリスを傷付ける、それが怖かった。だからアリスを拒絶した。

確定していない未来を想像し、それに捕らわれて解決できる方法を自分自身で隠してしまっていたのだ。



アリス様を悲しませたくないのならば、どんな危険任務からも無事に帰ってこられるくらいに強くなればいい



自分の中で結論が出た瞬間、私は椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。


「うぉ!?どした!?シグルドが言いすぎたか!?」


「何を言う、あれくらいで言いすぎになるものか。私は正論を述べたまでだ」


「あのねぇ、正論は時に人を傷付けるんだぞ?」


そんなやり取りをする団長二人に私は勢いよく頭を下げた。


「お二人のお陰で目が覚めました!私には努力が足りなかったようです、これからすぐにでも行動に移そうと思います!」


「あぁ、後悔しないように励め」


「はい!では失礼致します!!」


団長達のお陰で見えなかったものが見えた気がして、私は自分の考えを実行すべく部屋を飛び出した。

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