第67話 忘れていたのです
国王として罪人には罰を与える立場にいる父。
いつもは優しくて甘い父だが公私混同はしない。王の座について死刑判決を下してきたこともあるだろう。
仮に私が懇願してフィオナを含むロレンツィ家をお咎め無しに出来たとしても、私の誘拐に関わっていたという事は何処からか漏れてしまうだろう。
例えば私が誘拐された時に捜索してくれた騎士団の誰かから、もしくは城で働く侍女や侍従の話から。
内密にしようとしたところで人の口に戸は立てられない。
王族誘拐の罪を問われずとも、ロレンツィ家は今まで通りに過ごすことはできなくなるだろう。
ロレンツィ家の納める土地を狙う他の貴族が『正義』を語り危害を加える可能性もある。
けれど私はロレンツィ公爵家も被害者だと思う、彼らはルパートに利用されただけだ。だから命まで取る必要はないと考える。
なので、表向きには『処刑』したことにして国外に逃がしてしまえばいいのでは、と考えた。
その話をすると父は細めていた目を一度閉じて深く息を吐き出した。
「アリス…お前はそこまで考えていたのか。それどころではなかっただろうに………心に傷を負ってしまってもおかしくない出来事が起きたのだ。それなのに何故、そんなに冷静でいられるのか私には不思議でならない」
「あら、私はお父様が思っているよりずっと大人ですのよ?」
にこりと笑って見せると大きい手に頭を撫でられた。
「…こんな事がなければ、お前は急いで大人びることもなかったのかもしれないなぁ…」
父がポツリと呟くけれど、声が小さすぎて私には聞き取れなかった。
「お父様?何かおっしゃいまして?」
「いや、なんでもない。ロレンツィ家の処遇についてはアリスの要望を聞き入れよう」
父はひとつ頷くと私の部屋を後にする。
「ありがとうございます、お父様!」
慌てて立ち去る背中に声をかけると、父は軽く片手をあげはしたが振り替えることなく行ってしまった。
「差し出がましいのは承知で申し上げますが…よろしいのですか?」
父を見送り、休むからとメアリーとマリーに下がってもらったところでエリックが声をかけてきた。
振り返ると開いたままのドアからエリックが眉を下げて此方を見つめている。
「いくらご友人であっても、ロレンツィ公爵令嬢がアリス様に危害を加えたことは事実です」
そう告げるエリックは悲しそうな悔しそうな、形容しがたい複雑な表情を浮かべていた。
全く…なんて顔してるんだか、私よりエリックの方が傷付いてるみたいじゃない
「思うところは色々あるの…でも、私がすべき事は傷付きましたって泣くことでも起きた出来事に怯えることでもないわ。これからどうするかを考えることよ、それにあんな……ルパートみたいなヤツに傷つけられる程、私は儚い存在ではないつもりよ」
少女漫画の乙女のように怖かった、辛かったと泣くつもりは更々ないもの。
寧ろ、やられたら遣り返したいくらいだ………まぁ、遣り返すなんてこんな小娘の力ではたかが知れてるけど…。
内心で苦笑浮かべ、顔は不敵に笑い堂々土胸を張って見せると、私はエリックに近付いて真っ直ぐに見つめた。
「アリス様は本当にお強いのですね…。そういう一面も含めて私は貴女をお慕いしております」
「ありがとう、その気持ちに答えることは出来ないけれど好意を寄せてくれた事は嬉しく思うわ」
さらりと告げられた思いにそう返せばエリックは少し眉尻を下げた後、泣きそうな顔で微笑んだ。
彼は私の気持ちがどこに向かっているのか知っているのだろう、その上で思いを告げてくれた。
ならば、私も真摯に受け止め、そして返そう。
◇◇◇
翌日、ロレンツィ家への処遇が父から言い渡された。
王族に害を加えた物に洗脳されていたとはいえ加担した罪により、ロレンツィ家は公爵としての地位を失い国外追放となった。
国外追放と言っても追放先は決まっているらしく、父が昔少し世話になったという遠方の国にロレンツィ公爵家と付き添いを望む使用人数名を送るという形で対処したらしい。
フィオナはまだ未成年と言うこともあり、城で下働きを一年間だけ学んで貰いそれからロレンツィ公爵同様国外に追放するとの処罰が与えられた。
何故すぐに国外追放にならないのかと言うとこの国では未成年の罪人には更生の機会が与えられるからだ。
一年間、真面目に仕事をしてその結果で後の処分が決まる。
更生し真面目にやり直す場合は人並みの生活ができるが反省もせず一年間与えられた仕事をサボっていたりすれば牢獄で一生過ごすこととなる。
ルパートの様に成人済みで罪を犯した場合、問答無用で罪に合わせて刑が執行される。
ちなみに、殺人を犯した未成年が一年間で構成しない場合には成人を待って処刑されることもあるそうだ。
成人を待つ理由は定かではないが、『子供を処刑』なんて聞こえが悪いからだろうと私は勝手に思っている。
処罰が与えられたその日からフィオナは早速下働きとして、城で働くことになった。監視という名目で常に誰かが傍にいることが多いが、それでもフィオナは一生懸命に働いてくれた。
いつ頃かは明白ではないけれどルパートの刑も執行されたらしい、メアリーがこっそりと教えてくれた。
だから私はすっかり忘れていた。
婚約者候補である、エドワードのことを。
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