第66話 侍女の愛情です

私の元に訪れた三人の騎士はそれぞれお見舞いの品を渡してくれた。

なんでもエルバートがどうしても見舞いの品を渡したいとマリーに頼み込み、マリーが私に許可を得るのを待たずしてついてきてしまったとか。


私を心配してきてくれた気持ちはとてもありがたいので受け取る事にした。

三人から貰ったのは色違いの小さな花束だ、早速部屋に飾らせてもらおうと思う。

礼を述べるとエルバートが安堵したように深く息を吐き出した。


「それにしても王女殿下が無事で本当に良かったです。俺達はもちろん、ジェードが凄く心配してて怖いくらいだったんですよ!」

エルバートの言葉に私は思わず目を瞬かせる。


「ジェード様が?」


「鬼の形相ってああいうのを言うのでしょうね、俺も始めてみました」

アシュトンが真顔でこくこくと頷く。


「それだけ王女殿下を心配していたのでしょうね」

ルシオが私の方を見てはふと微笑む。



ジェード様が……それほどに私の事を……



思っても見なかった情報に嬉しさと恥ずかしさが込み上げる。

思い返せばルパートに襲われて助けてくれた時も、とても怖かった。けれどそれ以上に私の名を呼び大事に扱ってくれたのだ。



……自惚れても、いいのかな…私はジェード様の特別だって



ついジェード様に思いを馳せてしまった私がハッと我に返り顔をあげると、皆の視線が此方に集中していた。生暖かい視線が向けられる。

エリックだけは少し複雑そうにしていたけれど。


「エリック…今度の休みは奢ってやるよ」

「ドンマイ」

「そんな事もある」


「結構です。私は今のままで満足していますから」

三人がエリックにそれぞれ言葉をかけていた、マリーが首を傾げているので騎士にしか分からない内容なのかもしれない。

そんな事を思っていると父に伝言を頼んだメアリーが戻ってきた。


「おや、皆さんお揃いで。姫様、暫くしたら国王陛下がいらしてくださるそうなのでお部屋にお戻りください」


「わかったわ、ありがとう」


父が来ると言う報告を受けた私に、騎士三人は軽く挨拶をすると仕事に戻っていった。


「申し訳ありません姫様……お疲れの時に…」

騎士三人を連れてきたマリーが申し訳なさそうに頭を下げる。


「気にしないでマリー、心配してもらえて嬉しかったもの」


「…本当に心配したのですよ。側にいながらに私は姫様の危険に気が付けなかった…もし、姫様が帰ってこなかったかと思うと…」

マリーはスカートを握りしめると滲み出る感情を堪えるように唇を噛んだ。


「私はダニエル殿下や騎士の様に戦う術を持ちません、メアリーの様に情報収集に秀でているわけでもなければお役に立てる動物を躾られる訳でも……」



いや、うん…メアリーは規格外だから引き合いに出すのが間違ってると思うよ?



チラリとメアリーに視線を向ければ自慢げに微笑まれた、見なかったことにする。


「私には心配することしかできません…ですからどうか、御身を大切になさってください」


マリーは私の前に両膝を付くと眉を下げてこちらを見つめる。今にも泣き出してしまいそうな瞳に、少しだけ罪悪感が沸き上がる。

誘拐されたのは私のせいではないけれど、私がもっと警戒心を持っていれば防げたかもしれない。

その思いから正面にいたマリーの首に腕を回してぎゅっと抱き締めた。


「ごめんなさい、マリー。たくさん心配をかけてしまって…ちゃんと自分を大事にするわ。私の事を大事に思ってくれる人たちに悲しい顔はして欲しくないもの」


そう告げるとマリーは控えめに私の背中に腕を回してぎゅっと抱き締めてくれた。

その温もりは私の心まで温めてくれたような気がした。




「………こほん、えー……入ってもいいかい?」


ふと声がして顔をあげると父が困ったように目尻を下げながら此方の様子を伺っていた。

それに気がついたマリーは慌てて私を離すと父に向けて頭を下げる。

父の来訪に気が付いていたはずのメアリーは微笑ましいような眼差しで頷いていた。気が付いてたなら教えて欲しかった。



「アリス、私に話があるそうだが?」


早速切り出した父に私は背筋を伸ばして頷いた。



「はい、フィオナ様の処遇についてです」



私の言葉に目を細め優しい父の顔から国王の顔へと変わる。

私は息を吸い込むと真っ直ぐに父を見つめた。



「フィオナ・ロレンツィを含むロレンツィ家を『処刑』していただきたいのです」

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