舞台裏‐おまけ3

web拍手にて掲載したショートストーリー


『小さな贈り物‐ジェード視点‐』


地面を覆う色づいた葉を踏むとかさりと音がした。

もうすっかり季節は冬になろうとしている。

城内の木々たちも赤や黄色、徐々に色づいては地面を暖色の絨毯で埋めていく。

その光景を眺めていると不意に後ろから小突かれた。身構えてすらいなかった私は少しよろめいてしまう。

小突かれた後頭部を抑えながら振り返るとダニエルがこちらを軽くにらんでいた。


「職務怠慢だぞ」

「…申し訳ありません」


素直に頭下げればダニエルは肩を竦めて私の眺めていた方向に視線を向ける。


「これだけ艶やかに色づいていれば、見惚れてしまうのも分かるがな…だが仕事中だ、気をつけろ」

「はい」


気合を入れなおす為に一つ深呼吸すればひらりと私の腕の中に赤い葉が一枚飛び込んできた。葉先に向けて黄色にグラデーションが掛かったそれを私はそっと騎士服のポケットに仕舞う。

ひらひらと舞う様子が、彼女の姿を連想させ払いのける事など出来なかった。勤務が終わったらこれで栞を作ろう、そしていつも差し入れをくれる彼女に贈ろうか。

豪華な装飾品でも、宝石でもないけれどきっと彼女は喜んでくれる。

その笑顔を思い浮かべながら私は職務をこなすのだった。




『恋する騎士の悩み-アシュトン視点‐』

「アシュトン~」

情けない声に呼ばれて振り返るとしょんぼりと肩を落とすエルバートが居た。

改めて想い人に告白しに行くと告げてしばらくたったが様子を見るとその結果はいいものではなかったのだろう。


「あー…なんだ、振られたか?」

そう告げるとエルバートは首を横に振る。

「…恋人になってくれるって」

「はあ!?」

エルバートの言葉に思わず声が出る。

俺の声に近くにいたルシオが駆けつけてきた。


「なんだ、何かあったか?」

「エルバートがマリーちゃんを射止めたらしい」

「はぁ!?」


ルシオも驚愕してエルバートを見つめる。

「エルバート、お前どんな卑怯な手段を使ったんだ」

「使ってねぇよ!?お前ら俺を何だと…」

怒りだしそうなエルバートを宥めて俺は目を瞬かせた。

「ならどうして凹んでたんだよ?」


「恋人に…なれたのはすげぇ嬉しいんだけど…恋人ってなにすんのか、俺全然分からなくて」

「あー…」

エルバートの言葉に俺は頭を抱えた。

なるほど、こいつはこの歳まで異性とお付き合いをしたことが無いらしい。


「恋人って何すんのか二人は知ってるか?」

「そりゃお前、やることやりゃあいいんだよ」

「アシュトン、エルバートに穢れた答えを吹き込むな」


ルシオに軽くにらまれて肩を竦めるが間違ったことは言ってない。

「いいか、エルバート。女性はまず丁寧に扱わなければいけない、それから相手に対する思いやりと気遣いを忘れるな」

ルシオが説明する言葉をふんふん頷きながら素直に聞きいれるエルバートに、思わず頬が緩みそうになる。

仲間の恋路が上手くいくことを願いながら俺はルシオの恋愛講座を眺めるのだった。





『制裁-ウィル視点-』


ろうそくが照らし出す暗い部屋で俺は剣を振るう。

飛び散る紅色にも先程まで動いていたものが止まる事にも、もはや何の感情も抱かない。

切り捨てたゴミがあげた悲鳴はまだ耳の奥で反響しているが、時期に消えるだろう。


「お前は…何人殺してきた、ウィル」


かつての仲間は息も絶え絶えにそう呟く。放って置けば間もなくこと切れるだろうが助け等来ない、王家に反旗を翻すものはすべて俺が処断した。


「さぁねぇ、君は潰した虫の数をいちいち数えるのかい?」

「…このようなこと…陛下が許すわけが…ぐ、ぅっ」


言葉を続けようとしたそれの傷口に剣の鞘を押し当てて黙らせる。

彼はこのことを知らないし、伝えるつもりもない。

優しい彼は反乱分子を殺すことを許さないだろう、けれど処断しなければこいつらは子供たちまで狙おうとする。

俺の大事な甥と姪を危険な目に合わせることなど許さない。

あの子たちは明るい世界で幸せに生きるべきなのだ。


「知ってるかい、悪事はバレなけば何もない事と同じなんだよ。隠し事は君たち以上に得意なんだ」

「貴様っ…」

「あぁ、そろそろ行かないと。俺の可愛い奥さんが心配してしまう」


わざとおどけたようにそう告げてそれの息の根を止め、建物を後にした。

「…血の匂いは落としていけ」

建物を出るなり背中に声がかかる、大嫌いなあいつの声。

そしてこのことを唯一しってる同士の声。

「はいはい、後始末は頼んだよシグ」

「変なあだ名で呼ぶな」

不機嫌そうな声にカラカラと笑いが零れる。


早く帰らないと、本当に妻が心配する。

けれどあいつの言うように血の匂いは落とさないと、そう思いながら俺は近くの湖に足を向けるのだった。



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