第62話 ヒロインに襲われるそうです
お披露目会が終わり、貴族達の挨拶に疲れきった私は離脱して休むことにした。
ワンピースタイプの寝間着に着替えて、マリーに髪の手入れをしてもらっていると不意に部屋のドアがノックされる。
「王女殿下…夜分遅くに失礼致します、少しだけお話出来ませんか?」
ドア越しに聞こえてきたのはフィオナの声だ。
もう具合は大丈夫なのだろうか?
メアリーにドアを開けてもらい上着を一枚羽織ってフィオナを出迎える。フィオナは私の姿を見ると、申し訳なさそうに頭を深く下げた。
「フィオナ様、お加減はもうよろしいのですか?」
心配になって尋ねれば彼女は小さく頷く。
「もう、大丈夫です。心配お掛けして申し訳ありません」
「お気になさらないで下さい。廊下だと冷えてしまいますからどうぞ中へ」
フィオナを中に招きいれると、マリーに頼んでホットミルクをいれてくれるように頼む。寝る前なので紅茶は控えた方がいいだろう。
カップにホットミルクをいれてもらい、一息つくとフィオナは躊躇いがちに口を開く。
「あの…二人きりでお話したいことが…」
そう言ってちらりと私の後ろに控えるメアリーとマリーに視線を向ける。
「構いませんよ。メアリー、マリー少しの間だけフィオナ様と二人にして」
「畏まりました」
すぐに頷くマリーとは対照的にメアリーはじっとフィオナを見つめて動かない。
「メアリー、お願い」
私がそう告げるメアリーは渋々頷いた、そして部屋を出る前にメアリーは小指の爪ほどの大きさがある小さなボールをこちらに差し出してきた。
それは表面がふにふにとしたボール。外側は透明で中には水のような無職の液体が入っている、力を入れたら潰れそうだ。
メアリーはフィオナに聞こえないように私の耳元に唇を寄せると小さく呟く。
「何かありましたら、この匂玉を潰して下さい。匂いを嗅ぎ付けてすぐに助けに参ります」
まるでフィオナが悪人のような言い方だ。
というか匂いを嗅ぎ付けてってメアリーは警察犬かな!?
「平気よ、でもありがとう。わかったわ」
私は受け取った小さなボールを掌に軽く握り混んだ。
メアリーとマリーが居なくなり、部屋の中には私とフィオナの二人きり。
居なくなったと言っても侍女二人は部屋の前で待機しているだろうし、エリックや護衛の騎士達も近くにいるのだから大丈夫だろう。
「それで、お話とは何でしょうか?」
私が首をかしげるとフィオナは緊張しているのか視線を泳がせ立ち上がり此方に歩いてくる。
震える手でスカートのポケットから、ハンカチでくるんだ何かを取り出した。
「実は…見ていただきたいものが…」
何だろう?
私が首をかしげ手元を覗き込めば、ハンカチでくるまれていたのは小さな巾着袋。フィオナの手が震えているせいかそれはぼとりと床に落ちる。
反射的に拾おうと身を屈めると、ふわりと甘い匂いが鼻を掠めた。
この匂い…!!
慌てて後ろに下がろうとした時、口許にフィオナのハンカチが押し当てられる。
そこから香る強く甘い匂いに意識をさらわれそうになるが逃れようともがく。
「ごめんなさい…ごめんなさいっ…でも、これで王女殿下も…私も、幸せになれるから…」
フィオナは私の体に腕を回しては逃げられないように押し込めると、口許にハンカチを強く押し当てる。
私が非力なのかそれともフィオナの腕力が強いのか分からないが、いくらもがいても逃れることができない。
次第に体に力が入らなくなって意識が遠退いていく。
このままじゃ…!
私は手の中に握っていた、小さなボールを精一杯の力で握り締める。
ぷちん、と潰れる感触がして液体が手を濡らした。
私の意識はそこで途切れてしまった。
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