第57話 魔法使いです
「魔法、使い…?」
「エドワード様のように不思議な力を使える人をそう呼ぶのです。私、魔法を使うのはじめてみました!しかも怪我を直せる魔法なんて、人の役に立てる素晴らしいものですね!」
再び礼を述べて顔をあげるとエドワードは目を伏せて今にも泣きそうな顔をしていた。
え、泣かせそう!?
何で!?
「…ごめんなさい、何か悲しませることを言ってしまったのでしょうか?」
慌てて謝るとエドワードは首を横に振る。そんな彼にエリックがそっとハンカチを差し出していた。
あれ、前にも似たようなことが…
いつだったかなー…あ、エリックと出会った最初頃だ。懐かしいなー。
私がデジャヴを感じているとエドワードは借りたハンカチで涙を拭う仕草をしてからにっこりと微笑む。
「そのように言っていただいたのは王女殿下がはじめてです。これは不気味な力なので余程の事がない限り使わないようにしてきましたから」
「そんな事……」
ない、そう言いかけてその言葉が無神経な事に気がつく。
私はエドワードの人生を歩んでいないし、魔法を使えるわけでもない。
エドワードが今までこの力のせいで悩み苦しんできた事を簡単に否定していいような立場ではない。
エドワードに限らず、生きていれば誰にだって辛いことや悲しいことがあるだろう。
他人と似たような経験をすることもあるかもしれない、そこから共感することもできるかもしれない。けれどその人の感じた痛み、悲しみはその人にしか分からないものだ。
経験してない他人が、軽く扱っていいものではない。
共感することや慰めたり、励ましたりすることは出来るだろう。
けれど、百パーセントその人の気持ちがわかるわけではないのだ。ならば他人が分かったようなことを言うのは無神経以外の何物でもない、そう思った。
「…私はエドワード様のお陰で怪我が治りましたわ、ありがとうございます。それと私の為に使いたくなかった力を使わせてしまって申し訳ありません」
ゆえに私に出来るのは怪我を直してくれた事へのお礼と、傷付けてしまったかもしれない事への謝罪だ。
両方の気持ちを込めて頭を下げると、エドワードがぽつりと呟いた。
「……王女殿下は、そう仰ってくださるのですね」
その言葉に顔をあげるとエドワードはゆっくり目を閉じ、肩の力を抜くようにふーっと長く息を吐き出す。
「私がこのような力を持っていることは他言無用でお願い致します」
「勿論です」
私がこくりと頷けばエドワードはエリックにも視線を向ける。
「貴方も、どうか内密に」
「畏まりました」
幸い、エドワードの魔法を目撃したのは私達二人だけのようだ。
「あの、エドワード様の魔法について少し伺っても宜しいですか?」
「…私に答えられることならば」
「その力は生まれつきなのでしょうか?」
私が尋ねてみるとエドワードはひとつ頷く。
「えぇ…生まれつきです。私の祖母にも同じ力があったと聞いていますので、恐らく遺伝だと。祖母は遠い異国からこの国にきたらしく、異国では不思議な力を使える一族がいたと言っていました。祖母はその一族の出身だそうです」
「エドワード様のお婆様が…」
「それがなにか?」
「い、いいえ、少し気になっただけですわ」
こてんと首をかしげるエドワードに笑ってごまかすと私は何事も無かったかのように庭園の散策を再開した。
彼の話を聞いてひとつわかったことがある。
ゲーム画面越しに見ていたこの国にも外があり、その異国では魔法を使える人たちもいるということ。
……せっかく転生したんだから、いつか魔法がある国にも行ってみたい!
どうせなら第二の人生、謳歌しなくちゃ!
前世では魔法なんてない世界だったし、せっかく魔法の存在が確認できたのだ。
もっといろんなものをみてみたい。
転生することによって私はもう一度人生を楽しむ事が出来るのだ、それならば満喫しなければもったいない。
エドワードと庭園を歩きながら私は今世での新たな目標を立てるのだった。
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