第52話 兄と叔父です
会議のような話し合いが終わり、さっそく城下町を始めとした国中にルパートの姿絵が配られることになった。
父が姿絵をかける職人を手配したのを確認して私も部屋に戻ろうかと立ち上がったその時、横から急にふわりと抱上げられた。
少し驚きながらもなるべく冷静に私は抱き上げてきた人物を嗜める。
「ウィル叔父様、私ももう立派な淑女です。子供扱いは止めていただけませんか?」
私を抱き上げたのはウィルだった。
わざと不機嫌そうに唇を尖らせてみればくすくすと楽しげに笑われる。
「おやおや、それは失礼しました」
口ではそういうけれどウィルは私を降ろそうとはしない。
「ところで…先程の話し合いだけれどよく自分から協力しようと思ったねぇ?普通の女の子なら怖いからと引きこもってしまってもおかしくないのに」
そう言って目を細めるウィルに私はにこりと微笑む。
「叔父様、私は王女ですもの。その辺の女の子と同じでは駄目ですわ、それに……」
「それに?」
途中で言葉を止め目を瞬かせたウィルの耳許に唇寄せてこそりと告げる。
「やられっぱなしだなんて第一王女の名が廃ります」
そう告げて不敵に笑って見せるとウィルは数度ぱちぱちと目を瞬かせた後、声を圧し殺すようにして笑った。
「さすがは義姉さんの娘だ、君の将来が楽しみだよアリス」
「アリス、叔父上と何を話しているんだい?」
ウィルと笑い合いながらそんなやり取りをしていると、横から手が伸びてきてウィルの腕から私を奪い取る。
そしてすぽりとその人物の胸に収まった、顔をあげてみると兄がニコニコ微笑んで………訂正、目が笑ってないですお兄様。
兄は私を腕の中に納めたままウィルに視線を向ける。
「叔父上、私の可愛い妹をたぶらかすのは止めていただけませんか」
「たぶらかすだなんて人聞き悪いなぁ。おや、もしかして自分が構ってもらえなかったからヤキモチかい?」
ニマニマと笑うウィルに兄はカッと頬を赤らめて抗議する。
「アリスにちょっかいをかけるなといってるんです!」
「そうかそうか、叔父さんと遊べなくて退屈してたかダニーは」
「ちょっ…!抱き付かないでください、暑苦しい!」
抱き上げられたままの私ごとウイルは兄をぎゅっと抱き締める。
全力で嫌がる兄を構い倒すウィル。見ていて楽しい光景だが私は間に挟まれて揉みくちゃにされている。
どうやら兄は幼い頃かなりからかわれたりしていたようで彼が絡むといつも完璧な顔が崩れる、私としては見ていて面白い。
そこに私が挟まれなければの話だが。
私を挟んでわちゃわちゃとやり取りをする二人の体を精一杯の力でぐいっと押し退ける。
「ウィル叔父様もお兄様もいい加減になさいませ!やりあうのならせめて私を巻き込まないで下さい!」
小さな子供の力等たかが知れているが、二人は私を解放してくれた。
「す、すまない…アリス、怪我はないかい?」
おろおろする兄とは対象に楽しげな笑みを浮かべるウィル。
「すまないねぇ」
全然反省しているように見えない気がするけれどウィルはいつものこんな感じだ。
「うむ、女性相手なら百戦錬磨のウィルも姫様には叶わぬらしい」
私達のやり取りをみていたテオが楽しげに笑う。
「姫様、その調子でウィルのナンパ癖を叩き直してやってはくれぬか。こやつと来たらいつもフラフラしおって用事がある時に限って捕まらぬのだ」
「フラフラだなんて人聞きの悪い、俺は仕事をしているだよテオ」
肩を竦めて笑って見せるウィルにシグルドが刺のある口調で言葉を放つ。
「いつから町娘に声をかけるのが騎士の仕事になった、騎士の仕事をなんだと思っている」
「何処か団長様みたいに怖がられて話すら聞いてもらえないよりはマシだろう?それに女性は最新の情報に敏感だ。我々でも知らないことを知っていたりする、侮っては失礼と言うものさ」
兄とウィルのやりとりを納めたと思ったら今度はウィルとシグルドが睨み合いを始めてしまった。
ウィルという人物はどうしても敵を作りやすい性格のようだ。普通にしていれば優しくていい叔父さんなのに。
「何ゆえお前たちはそういつも喧嘩になるのか…俺は不思議でならん」
頭を抱えてしまったテオに同情しながら私は兄に促され、こっそりと会議室を後にした。
「……全く、何故叔父上はああも火に油を注ぐような真似をなさるのか」
廊下を歩きながら兄がポツリと溢す。
「お兄様はウィル叔父様がお嫌いですか?」
顔をあげて訪ねてみると兄は少しだけ視線をさ迷わせた。
「嫌いではないよ…今も昔もね」
そう呟く姿が何処か遠くを見て何かを思い出しているようでなんとなく気が引けてしまい、私はそれ以上ウィルの事を尋ねる事は出来なかった。
◇◇
話し合いが行われた日から七日程経過した。
国中にルパートの姿絵が配られたが一向に捕まらない。けれど動きが制限されているのか、私の回りに彼が現れることも怪しげな贈り物が届くこともなかった。
そんな時、突然私に一人の男の子が会いに来た。
にこにこと微笑む父の横で私と同い年だと紹介された男の子は恭しく礼をすると短めの薄紫色の髪をさらりと揺らして私を見つめる。
「王女殿下のご尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたる事、見に余る光栄に存じます。私はエドワード・セドレイと申します、以後お見知りおきを」
年不相応に丁寧な口調で名乗ったその人は以前、父が私の婚約者候補として見付けてきた人物だった。
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