第51話 話し合いです
暫くして私は父や兄と共に城内の会議室にいた。
兄の後ろにはジェード様が控えており、私の後ろにはエリックが控えている。そしてテーブルを隔てた正面には騎士服を身に纏う男性が三人。
彼らは各騎士団の団長だ。
この国の騎士団は三つに別れている。その為、各々の騎士団を納める団長が三人いた。
最初に第一騎士団。
ジェード様やエリックが属している騎士団だ。
主に王族の警護や城内の警備に力をいれていて、王族に何かあった時に真っ先に動く騎士団である。
それを束ねているのは第一騎士団団長、シグルド・サファイア。
彼は黒髪をオールバックにして如何にも融通が利かなそうな真面目な男性だ。
兄から聞いたところによるとジェード様の剣術の師匠らしい。
次に第二騎士団。
彼らの仕事は主に貴族を警備したり、貴族同士で問題が発生した時に対処するための騎士団だ。
団長はウィル・ジルコン。
父の昔馴染みであり、母の妹と結婚した私と兄の叔父でもある。
妻子があるにも関わらず、女性には呼吸するかのように自然に声をかけるというナンパ癖を持ち、私も顔を合わせる度にウインクを飛ばされたりしている。
そのせいか、兄は彼を敵視している節がある。
まぁ、私から見れば面白いおっちゃんなのだが。
最後に第三騎士団。
此方は庶民や平民の為に動くことが多く、街の自警団とも連携して国全体を守ってくれている。
その為所属している騎士が一番多く、随時所属の騎士達が持ち回りで城下町を見回っているとも聞く。
因みに国境等で問題が起きた時にまず最初に対応してくれるのが彼らなので、重要な役割を担ってくれているのだ。
第三騎士団団長の名はテオ・エメラルド。
大きな熊の様な体型に男らしさを象徴するような筋肉がついているのが騎士団服の上からも分かる。
熱血で情に熱く、騎士達から慕われている団長だ。
実はとても愛妻家で奥さんの前ではもうデレデレになるらしい。
「…不審者が城内に侵入した事についてはダニエルから話が伝わっているかと思う。犯人はアリスを誘拐したものと同一犯だと私は思っている、妃が身籠っていることもあり早急に事態を解決するために貴殿達にも知恵を貸してほしい」
父がそう告げると騎士団長達は真剣な顔で各々頷く。
そこからまず最初に口を開いたのはシグルドだ。
「恐れながら陛下、申し上げてもよろしいでしょうか」
「あぁ、意見や解決策が思い付いたのなら遠慮なく口にしてくれ」
「感謝いたします。…恐れながら内通者がいることも視野にいれるべきかと」
シグルドの言葉に眉を寄せたのは兄だ。
「城内の者が手引きしたと?」
「はい。侍女や侍従、騎士団員だけでなく、先日招待された貴族の方々も調べるべきかと。彼らの中に内通者がいたからこそ、我々の警備のなか城内まで侵入できたのではないでしょうか?」
「それって『警備をしていた第一騎士団は悪くない』って言いたいのかい、シグルド」
言葉を割り込ませたのはウィルだ。シグルドに視線を向けることもなく、緩くウェーブの掛かった自分の髪を指先に絡め弄ぶ。
「私はひとつの可能性を述べたまでだ」
ピクリとシグルドは眉を動かし視線を向けることなく答えた、この二人…仲が悪いのだろうか?
「『内通者がいて手引きをした』…そうでなければ第一騎士団の警備に穴があった、と言うことになる。自分達の警備の甘さを曖昧にしようって魂胆かな?」
「なんだと……?貴様、第一騎士団を侮辱するつもりか」
「だってそうでなきゃおかしいだろう?なぜ不審者が城の中に入ってこられたのか、何故王女殿下の部屋の前に贈り物ができたのか。第一騎士団の警備が甘かったという他に、納得のいく説明が出来るのかい?」
「…此度の警備は騎士団総出の警備だった、第一騎士団のみというわけではない。案外第二騎士団の落ち度じゃないのか?」
「ふうん…言うねぇ」
「止めろ!ウィル、シグルド。陛下の前だぞ、控えろ」
ヒートアップしそうになった二人のやり取りをテオが一喝して止める。思いがけない声量に私も一瞬びくりと震えてしまった。
責任の所在が明らかに出来ない今、騎士団長達もピリピリしているようだ。
「申し訳ありません陛下」
「お見苦しいところを」
揃って頭を下げる二人に父は「気にするな」と首を横に振る。
「二人とも事態の解決を急ぐばかりに感情的になっているのだろう、その気持ちは嬉しく思う。だが焦ったところで事態は好転しない。このような時だからこそ我らが力を合わせなくてはいけない。分かってくれるか?」
そう問う父に、二人の団長は深く頭を下げ頷いた。
「まず何故城内に侵入できたかダニエルが仮説を立ててくれた。説明してくれ」
「はい、父上」
父に名指しされると兄は事前に用意していたらしい一冊の本をテーブルの上で開いた。
開かれたページには花のイラストとその花の説明が書いてある、恐らく植物図鑑のようなものだろう。
その場にいる人間に見える様にテーブルの中央へと置く。
「アリスの部屋の前に置かれた薔薇の花束からは甘い匂いが漂っていました。調べさせた者の中に似たような香りを持つ植物を知っている人間がいて、この植物ではないかと言っています」
兄が開いた本のページを皆で覗き混む。そこにはユリのような花が描かれていて、説明文には『濃縮した蜜の香りは幻覚誘発や精神を不安定にさせ、昔は罪人を処罰するための洗脳に用いられる事もあった』と記載されていた。
「アリスを誘拐したルパートはこの花を使ってアリスを洗脳させようとしていたと考えられます。同じように城内に侵入する際にも使用したのではないかと、私は考えています」
「このような物が我が国にあったとは…」
兄の言葉に父が眉間のシワを深くする。
「いいえ、父上。この花は我が国の物ではありません、海の向こうの大陸を二つほど越えた国で自生している物だそうです。ルパートは装飾品の材料を得るため、色々な国を旅していたと雇い主が証言していたのでその時に手にいれたのではないかと」
「ならばその犯人……ルパートでしたかな?やつの持っている花を奪ってしまえば脅威は去るというわけですな」
暫く腕を組んで静かに話を聞いていたテオが頷きながら告げると、ウィルが自分の額に手を当ててため息をつく。
「テオ、その前に犯人を見付けて捕まえる必要があるだろう?」
「む………そうか」
ウィルにそもそもの問題を指摘されたテオが項垂れてしまう。
「まずは犯人の捕獲だ。騎士達にも周知するために姿絵を配った方がいいかもしれない…陛下、姿絵を城下にも貼り出すのは如何ですか?」
シグルドの発言に父は考え込むように視線を落とした。
その様子を見て私はぱっと手をあげる。
「お父様、姿絵を作成するなら私もご協力します」
そう発言すると、テーブルを囲む全員の視線が私に集まった。後ろからも視線を感じるのでジェード様やエリックも私の方を見ているのかもしれない。
「顔も覚えています、ですからお役に立てるかと」
「けれどアリス、嫌なことを思い出させてしまうよ?…ただでさえアリスは被害者で…色々話を聞かれているというのに」
兄が私を気遣うかのように此方を向く、一方父は何か見定めるように私をじっと見つめている。
「それがなんだというのでしょう。ただでさえ私は守っていただいている立場です。私を狙う輩を捕まえようと騎士団の方が一生懸命、働いてくださっているのに何もせずに怯えている事など私には到底出来ません」
勇気ある王女の発言に聞こえるかもしれないが、本心は完全に個人的な恨みである。
この話し合いに参加したのも自分でやり返す手段を得るためだった。
あんなヤンデレをこの国内に放置しちゃいけない、なによりジェード様に怪我させる事になった落とし前つけてやるんだから!
王家の権力使って探し当てて、一発ひっぱたいてやらないと気がすまない!!
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