第50話 お知らせがあります
翌朝、身支度を整えていると部屋に両親が飛び込んできた。
「アリス!事情は聞いたぞ、大丈夫か!?」
「ダニエルが傍についているから大丈夫だとは思ったのだけれど…怖かったでしょう?」
私の姿を見付けるなり両親は飛び付くように私を抱き締めてくる。
「昨晩のうちに来ることが出来れば良かったのだけれど、警備や残っていたお客様への対応に追われて朝になってしまって…ごめんなさいね」
母が申し訳なさそうに眉を下げるのを見て私は慌てて首を横にする。
「お兄様が居てくださったから怖くなかったです、大丈夫ですわお母様」
そう言って微笑むと兄が当然と言うように胸を張る。
「私がいる限りどんな輩もアリスに指一本触れさせたりしませんよ」
「まぁ…とても心強いお兄様ね、アリス」
「はい、私のお兄様はとても強くて世界一素敵なお兄様ですもの」
私が自慢げに笑って見せると、兄が口許を押さえて床に膝をついた。今の台詞が何かしらのシスコンスイッチを押してしまったらしい。
その横で父が寂しげに「王として…それ以前に父親としての私の立場は…」とショボくれていた。見ていて少し可哀想になってくるので父には後で思いきり甘えておくとしよう。
別に嫌いな訳じゃないのよ?
ただ、お父様は弄ると面白いから、つい。
胸の中で誰にともなく言い訳をしていると、母と父が何か目配せをしているのが見えた。なんだろうと首を傾げたと同時に父が口を開く。
「ダニエル、アリス。こんな時だが…言わなければならないことがある」
いつにない真剣な父の様子に、私と兄は背筋を正す。ちらりと母に視線を向ければ口許に笑みを浮かべているので悪い話ではなさそうだ。
父は兄と私の顔をそれぞれゆっくり見るとこう告げた。
「お前たちに新しい妹か、弟が出来る」
………はい?
「新しい兄弟…本当ですか、母上」
兄が尋ねると母は目を細めて嬉しそうに頷く。
「えぇ、まだ性別は分からないけれど確かよ」
妹か…弟……。
……マジか!!
兄と母のやり取りに私は目を丸くする。
ゲームの中でそんな記述はなかった………というかそもそも誘拐事件が起こる事やフィオナがジェード様を好きになる事も、ゲームの中では全く起こらなかった出来事だ。
私という存在もゲームの物語には関係がない登場人物だからゲームには影響しないと思っていたのに。やはり何かしらの形で影響していた為、物語が変わってしまっているのだろうか。
「アリス?どうかしたのかしら?」
つい難しく考え込んでしまった私は母に声をかけられはっと我に返ると、慌てて誤魔化した。
「な、何でもありませんお母様」
「…ごめんなさいね、貴女が怖い思いをしているときにすべき話では無かったわね」
申し訳なさそうに目を伏せる母に私はブンブンと千切れそうな程の勢いで首を横に降る。
「違うのです!お母様は悪くありません!…その、少し不安になってしまって…。弟か妹が出来るのは嬉しいのです…けれどお兄様やお母様をとられてしまうのではと思って…」
前世の記憶との違いに不安を感じている、等と言うことはできないので『産まれてくる兄弟に大好きな兄や母をとられてしまう事に不安を感じている少女』を演じて見せる。
「アリス…、大丈夫だよ。私は兄弟が増えても変わらずアリスの事が大好きだから」
「私もよ、赤ちゃんは手がかかってしまうからどうしても離れなければいけない時もあるだろうけれどアリスの事はずっと大好きなままよ」
そういって兄と母は私の頭を撫でてくれる。少し罪悪感を感じるけれど、こうして甘やかしてもらうのは悪くない。
「アリス…私も家族が増えても変わらず愛しているぞ」
父が自分も、と躊躇いがちに主張してきた。少し苛めすぎてしまっただろうか、眉と肩をしょんぼり下げる様子は落ち込んでいる大型犬の様だ。
「私もお父様が大好きです」
ジェード様に婚約の件を話されたことはそろそろ水に流してあげてもいいかもしれない、そう思い出血大サービスとばかりに笑顔を向けたら一瞬でがっちりと抱き締められた。
ついでにここぞとばかりに頬擦りをされたが、父の髭が痛かったので全力でパンチをかまして兄の後ろへと逃げた。
髭の反り残しは私の柔肌には凶器です、マジで。
父達が仕事の為部屋を後にすれば、入れ替わるようにジェード様が現状の報告にやって来た。
それによると城内で不審な者の姿は未だ見つけることが出来ず、既に逃げられたか何処かに潜んでいることを考え騎士団総動員で城の中やその周辺を警備しているとのことだった。
「犯人が見つからない以上、城の中も安全とは言えないな…。母上のこともある、あまり状況が長引くのは良くない」
兄は厳しい表情で指先を口許に当てて、今後の事を思案し始める。
私もこの状況はなるべく早く打破したいところだ。
せっかく妹か弟が産まれてくると言うのにいつまでも警戒体制のままでは母だって出産に備えることができないだろうし、私だって今はまだ平気だがそのうち精神が角砂糖のようにガリガリ削られていきそうな気がする。
「一人で考えていても拉致があかないな…各騎士団の団長を召集してくれ。今後の方針を決めたい」
兄の言葉にジェード様は頷くとそのまますぐに部屋を出ていってしまった。
「アリス、侍女達と護衛騎士をつれて母上の所に行っててくれるかい?私は騎士団長達や父上と今後の事を話さねばならないから」
兄にそう言われて私は首を横に降り、まっすぐと兄の瞳を見詰めると口を開いた。
「お兄様、そのお話に私も参加させてください!」
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