第47話 女子会です

「…仲が良かった、といいますか…たまにお話しする程度で…」

頬を染めながら話すマリーは恋する乙女でとても可愛らしい。


「で?で?マリーは何てお返事したの?」

「それは………その……」

「マリーったら、恥ずかしがってその場から逃げ出してしまったんですよ」

言い淀むマリーの代わりにメアリーが不満げに唇を尖らせながら答える。

「もうっ、メアリー!」

「まぁまぁ、良いじゃないですか。あの場にいた侍女や侍従も知ってることですから」

「………うぅ」

マリーが抗議の声をあげるが帰ってきた言葉に反論できず、恥ずかしそうに俯いてしまう。

「だって……殿方に、告白されたことなんて…ありませんもの」

「マリーは昔からちょっと鈍いところがありますからね、遠回りに告白されたんじゃ気がつかないんですよ。率直に伝えたのはエルバート様が始めてです」

紅茶を飲みながら苦笑を浮かべるメアリーに私は首を傾げる。


「マリーとメアリーは昔から知り合いなの?」

「えぇ、幼馴染のようなものですわ」

私の問いにメアリーはこくりと頷く。

「マリーったら昔から凄く異性に人気があって…でも鈍いから気がつかないんですの!『付き合おう』と言われて素で『何処にですか?』と返したこともあるんですよ。その時の相手の方の顔と言ったら…」

「メアリー!余計なことは言わなくて良いのっ!」

真っ赤になったマリーにメアリーは口を塞がれてしまう、それが仲の良い姉妹のようで少し羨ましく思えた。

「私のことよりも、姫様はジェード様となにか進展はありまして?」

メアリーの口を塞いだままマリーは此方へと話を振ってくる。

予想していなかった自分への問い掛けに私は視線をさ迷わせる。


「えっと…進展というものは…あまり。それに私はまだ子供だからジェード様には恋愛対象に思われていないだろうし…」

話ながら脳裏に浮かぶのは楽しそうに話すフィオナとジェード様の姿。

きっとジェード様は私を兄の妹、もしくはなついてくる子供程度にしか思っていないのだろう、そう思うと悲しくなってくる。

全く、恋と言うものはここまで面倒な感情だったろうか。

「私からは良い雰囲気に見えますわ、ジェード様がお優しい顔をして微笑むのは姫様の前だけですもの」

はっきりしない私の返答に、塞がれていた手を退けてメアリーがそう告げるけれど私は首を横に振る。

「そんなことないわ……先程、フィオナ様とお話ししているところをお見かけしたけれど…楽しそうに笑っていらっしゃったもの」

その言葉に二人は少し気まずそうに顔を見合わせる、私はそんな気まずさを振り払うように顔をあげて笑って見せる。


「仕方のないことだわ……私はまだ子供なのだから。でも、だからといってジェード様を諦めるつもりはないわ。意識してもらえないのなら…意識してもらえるように頑張るだけだもの!」


そうだ、私は甘えていた。

私は姫に生まれたから望むものは与えてもらえると。ジェード様もこのままいけば私のことをきっと好きになってくれると、どこかで自惚れていたのだ。

だからフィオナに微笑むジェード様をみて、嫉妬した。

そんな甘えを捨てて自分を見てもらうための努力しなければ、ジェード様の心を射止めることなどできない。

そんな当たり前のことになぜ気が付けなかったのか。


堂々と胸を張って見せる私に侍女二人は目を細めて微笑んでくれる。

「その調子ですわ、姫様の愛らしさにジェード様もきっと気付いてくださいます」

「マリーの言うとおりですよ!私達は姫様の応援隊ですから、協力できることがあれば何なりとおっしゃって下さいまし」

「…二人とも、ありがとう。私、頑張るわ!」

励ましてくれる二人に私の心はほっこりと暖かくなる。私は侍女に恵まれているのだと染々思った。




その後も暫く他愛もない話をして、女子会はお開きとなった。

すっかり夜も更けてしまっていた為、私は寝る仕度を整えてベッドに潜り込む。侍女二人は下がってしまい私の部屋はしんと静まり返っているがホールでパーティーは続いているのだろう、賑わう声が遠くに聞こえる。


ジェード様はまだ仕事中なのかな…お兄様はジュリアとどうなったのだろう…、いい雰囲気だったしまた婚約するのかな…


そんなことを考えながら微睡んでいるんと不意に聞こえてきたノックの音に意識が引き戻される。

こんな時間に誰だろうか。


「……だぁれ、メアリー?」


ベッドから体を起こして声をかけてみるが応じる声は聞こえない、しかしドアは再びノックされる。


おかしい――。侍女達なら普通に声をかけてくるし、兄や両親だって同じだ。

私はベッドを降りてそっとドアに近付くと、その向こうへと声をかける。


「こんな夜更けに何方かしら?」


幸い部屋の内側から鍵をかけていたので相手が入ってくることはできない、私がドアを開けない限り安全だ。

なのになんだろう、この競り上がってくるような嫌悪感と恐怖が混ざったような感覚は。

ドアの向こうからは物音ひとつ聞こえない。


もしかしたらピッキングとかでドアを開けようと工作しているのかもしれない。

私は震えそうになる足を動かして、自室の机の引き出しからペーパーナイフを取り出す。

こんなものでは役に立たないかもしれないがなにもないよりマシだろう。


ノックの音もぱたりと聞こえなくなり、外の様子を伺うためドアに近付きぺたりと耳をつけるも人のいる気配はしないし物音も聞こえない。

私はペーパーナイフを握り締め身構えながらゆっくりとドアの鍵を開ける。


こういった時は開けないのが一番なのは百も承知だけれど、このままにしておくのは気になって眠れそうにない。

ゆっくりドアノブを回してドアを開ける。

そろりと顔を覗かせ目に入ってきたものに私は思わず息を飲んだ。

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