第37話 『囚われの御姫様』です

そのまま胴体に腕を回され身動きができなくなる。

「アリス様!」

振り返ったエリックが声をあげジュリアが硬直する。


「…そっちの子は返しても良いけど…、この子は俺がもらう」


耳元から聞こえたその声にぞわりと背筋が冷えた。声の主をちらりと横目で見ればその顔を見ることができる。

「あなた……装飾品店にいた…ルパートさん?」

「あぁ、覚えていてくれたなんて嬉しいなぁ。俺も覚えてるよ、俺の作品を…いや、俺を魔法使いだって誉めてくれた貴女の事を」

熱に浮かされたかのようにルパートは私に囁く。

「アリス様を離せ!」

エリックが剣を構えるけれど私がルパートに抱き寄せられている為、手が出せない。

「断る、やっと出会えた運命の人なんだ…だから酷いことしたくないんだよ。貴女も逃げようなんて思わないでね、逃げたら…このナイフで殺しちゃうかもしれないから」

どうやら私の首にぴたぴた当てられている冷たいものはナイフらしい。


「…っ、ご令嬢!先に行ってください!」

エリックはジュリアに声をかける。この状況でジュリアしか動ける人はいない、彼女が兄に知らせてくれればきっと駆け付けてくれる。

「いいよ、行っても。俺はこの子が欲しいだけだから君は見逃してあげる……もっとも、俺の仲間はお金の方が好きだから君を逃がしはしないと思うけど」

ルパートがニヤリと笑いながらそう口にすれば、私達が出て来た地下道から沢山の足音が近付いてくるのが聞こえた。

「ジュリア!早く逃げて!」

私が叫べばジュリアは弾かれたように空き家を飛び出す。


「さぁて…お供の君はどれだけやつらを引き留めておけるかな?」

ルパートがそう告げると同時に地下道から人相の悪い男達が十人程姿を現す。その中にはジュリアを脅していた男の顔もあった。

「エリック!」

「大丈夫です、アリス様。必ず助けます」

私が声をあげればエリックはにっこりと微笑む。


「殺すなよ、死んだら片付けが面倒だ」

ルパートは男達にそう告げるとナイフを当てていた手を一度下ろし、私の口許に布を押し当てた。

「んんっ!?」

手足をばたつかせ逃れようとするけれど次第に体の力が抜けていく。

「アリス様!……くそっ」

エリックは男達と剣を交えながら私を呼ぶけれどその声はだんだん遠くなり、やがて私は再び意識を失った。









◇◇


目が覚めるとまた薄暗い場所だった、視界に広がるのは細い鉄格子。

また牢屋だろうか…そう思い体を起こそうとして気が付いた。

私が横たわっていたのはふわふわな毛布の上で、ご丁寧に枕やクッションおまけにぬいぐるみまで置いてある。

そして良く見てみれば鉄格子の外は豪華な造りの部屋になっていて窓もついていた、そこから月明かりが差し込んでいる。とっくに日が暮れてしまったようだ。


「……なにこれ」


改めて辺りを見回し状況を把握した私は思わず呟いた、この場所は牢屋ではなく大きな鳥かごの中なのだ。

籠の中にはクッションやぬいぐるみ、毛布……そして鎖のついた鉄球がごろりと転がっている。その鎖は私の手首と両足に嵌められた枷へと繋がっていた。


王女として生まれてまさか手枷や足枷をつけられることになろうとは……。

気分は囚人だが、状況的には囚われのお姫様といったところか。



……笑えないわ



ため息をついて部屋の様子を伺うけれど誰かが居る様子はない。部屋の内装からして何処かの屋敷かもしれない。



エリックは無事…?

ジュリア様はちゃんと逃げられたかな…

何とかして私も逃げ出さないと…



そう思い手枷や足枷を外せないか調べてみる。鍵穴を見つけることができたけれど、私はエリックのようにピッキングは出来ないし道具もない。



まぁできる方が凄いよね…。

とにかく、気持ちを確り持っていればきっと転機は訪れるはず…それにお兄様だって私の事を探してくれるばすだもの。

…ジェード様だって心配してくれてるかもしれない、信じて助けを待とう…

ジェード様なら、きっと助けに来てくれる



私は自分自身にそう言い聞かせ気持ちを落ち着かせるように手近なぬいぐるみを抱き締めた。

耳の長いウサギのぬいぐるみのようだ、手触りが良くとてももふもふしてる。香り付けしてあるのかほんのりと甘いお菓子のような匂いがした。

その匂いを嗅いでいると頭の奥に霧がかかったように意識がぼんやりと霞んでいく。



いけない…意識を確りと保っておかないと…。

寝ちゃダメだ…寝ちゃ…。



急激に訪れた眠気に私は自分の手に爪を立ててみたり、顔をぺちぺち叩いたりして抗う。

けれどその抵抗も虚しく私はいつの間にか深い眠りに落ちてしまっていた。

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