第38話 ヤンデレはお断りです
次に目が覚めたのは明け方だった。
窓から日の光が差し込み外から鳥の囀りが聞こえてくる。
私は相変わらず鳥籠の中にいて手枷と足枷をつけられていた。
大丈夫、きっとジェード様が…お兄様が来てくれる
自分にそういい聞かせてゆっくり深呼吸すれば脳に酸素が回り思考がはっきりとしてくる。
まずはこの手枷と足枷を何とかしなくては行動が制限され動きづらい。どうにかできないかと枷を観察しているといきなりガチャリと部屋のドアが開いてルパートが入ってきた。
「やぁ、目が覚めた?」
私の姿を見てにっこりと笑うその笑顔に思わず身構える。
「気分はどう?」
どうもなにもあるか、貴方のせいで最悪ですよ!
と言いたいところだけど無闇に逆上させるような事を言わない方がいいだろう、それよりも。
「…なんで、こんなことを?」
私は自分の感情を押さえながら出来るだけ淡々とした口調で動機を尋ねた。
するとルパートは目を細めてまるで恋人に向けるような熱のこもった視線を私に向ける。
「君が俺の運命の人だから」
「人違いです」
即答した。
この人の運命の相手とか冗談じゃない、大金積まれたってお断りだ。
「そんな事無い、君は俺を魔法使いって誉めてくれたろう。そんな風に褒められたのは初めてなんだ、君も俺を見つめてくれたし本当は俺を好きになってくれたんだろ?あんなに見詰められて嬉しかったなぁ」
………は?
何言ってるのこの人…いやいや確かに装飾品のお店でそんな事言ったよ!?言ったけど…それがこんなフラグになるなんて思わないじゃない!
というか私は貴方を見詰めたりしてないからね!?
私が好きなのはジェード様なんだから。
思い込みが激しくてこんな行動を起こすとか……あ、なるほどこれがリアルなヤンデレってやつか。
うわ、無理。
内心ドン引きして黙り込んでしまった私を見詰めてルパートはにっこりと微笑み、鳥籠の扉を開ける。そして中に入ってくると身構えた私の手をそっと持ち上げる。ジャラリ、と鎖が揺れた。
「っ…」
「急なことでまだ混乱しているよね、大丈夫。逃げたりしなければ君に危害を加えたりはしないから」
持ち上げられた手を振り払おうと力を込めるがルパートの手はびくともしない。
「怯えなくていいよ、大人しくしてればなにも怖いことはしないから」
貴方の存在そのものが怖いんです!
ヤンデレ怖い!
あと鳥肌がヤバイ!鶏になりそうなくらいぞわぞわしてるからね!?
せめてもの抵抗にキッと睨み付けてみたけれど「そんなに見つめてくれるなんて嬉しいな」とかふざけたことを言われた。
このヤンデレ、視線が合えば全部見詰めたように見えるのか。
恐るべしヤンデレフィルター。
「君のために装飾品を作ったんだよ、ほら」
ルパートはポケットから黒い宝石のような石がついたチョーカーを取り出すと私の首につけようとする。
「や…やめてっ!」
抵抗を試みるが呆気なく押さえ付けられ、チョーカーを首につけられる。粗い繊維で出来ているのかチョーカーに触れている部分がチクチクする。
外そうとするも特殊な金具でつけられているのか両手を使っても外れない。
「無駄だよ、それは鍵がついているから俺でないと外せない。あぁ、でもこれは外してあげようか…鎖が邪魔だもんね」
ルパートは気が付いたように手枷だけ外してくれる。
「……どうせならこれも外して下さい」
駄目だと言われるだろうが物は試しだ、そう思い足枷を指差すと案の定ルパートは首を横に振った。
「これはダメ、逃げられたら困るから。さて、朝食の準備をしてくるから大人しくしてるんだよ?」
そう言ってルパートは部屋を出ていった。
軽くなった腕で鳥籠の格子を掴んでみるけれど硬いそれは開きもしなければ歪みもしない。
八つ当たりに近くにクッションに思い切り拳を叩きつけた、ぼふっと音がして甘い香りが漂う。
これ、ぬいぐるみと同じ匂いだ
昨晩抱き締めたぬいぐるみと同じ匂いがクッションからしていた。嗅いでみるとクッションだけじゃなく鳥籠の中の全てのぬいぐるみや毛布、クッションに同じ香りがつけられている。ルパートが好んで使っているのだろうか。
自分の好きな香りで私にマーキングしてるとか?
うわぁ…無理…気持ち悪い、なんかもう全力で生理的に無理
とにかくなんとかして脱出の方法を見つけないと…
まずは足枷を外して鳥籠からでなければいけない、その為に何をどうしたらいいのか打開策を考えることにした。
考え事を始めた私は気付かない、ルパートの出ていったドアからクッションやぬいぐるみについていた甘い匂いがゆっくりと部屋の中に充満し始めていたことに。
◇◇
脱出策を考えて暫くし戻ってこないルパートを不思議に思い顔をあげてぎょっとした。
部屋の中にお線香でも焚いたかのような薄い煙が充満している。
「…火事!?」
慌てるも足枷により動けない、動けたところで鳥籠から出ることはできないけれど。
なるべく煙を吸わないように姿勢を低くして毛布を口に宛てた。
煙のせいか、それとも毛布についた甘い匂いのせいか思考がぼんやりとしていく。
ふわふわとした夢を見ているようなそんなとても心地のいい感覚に襲われ、私はいつの間にか思考ことをやめその感覚に身を委ねていた。
「もういいかな…?どうだい?」
誰かが声をかけてくる。その人物が誰なのか考えるのも億劫に感じた。
ぼんやりとその顔を視界に入れる。
………あれ、この人…誰だっけ…
「あぁ、いいね。薬が効いたみたいだ」
その人は扉を開けると私のすく傍にきて足に繋がってた何か硬いものをはずした。
それを外してもらいたいと思っていたのは覚えてる。
「おいで、俺の可愛い人。君は俺がずっと守ってあげる」
「…まも、る…?……」
その人は私を軽々と抱き上げる。頭がぼんやりして働かないし呂律もうまく回らない。
私は…何かを…待ってたんだけど、なんだっけ?
この人を待っていた?
うまく思考がまとまらない。
「大丈夫だよ、俺が傍にいるから。何も考えなくていい」
この人がそういうならそうなのかもしれないとすんなり受け入れられてしまう。
それに考えることがとても面倒だ、この人に任せておけばいいのだろう。
私がこくりと頷くとその人はとても嬉しそうに微笑んだ。
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