ドン・フ〇イVS高〇善廣

 で、二回戦目。「さて、どうする」なんて相談をする間もなく、ヤツが名乗りを上げた。


「ヒトカゲ! テメェは引っ込んでろ! 春樹はるき君‥‥‥私、どんな手を使っても勝つから!」


 前半と後半で全く違う声質で喋った雛坂ひなさかは、防具を付けつつ新海しんかいに語り掛けた。だが新海は「ふ、ふむ?」と不思議そうな顔をしている。わりかしガチで幼馴染であったことを忘れているらしい。不憫ふびんすぎるなぁ、雛坂。


 雛坂は地面をダダダンと踏み鳴らし、勇み足で試合場に向かっていく。見れば右手に長さ30cm程の、短剣タイプの得物が握られていた。

 と、同じタイミングで鮫島さめじま陣営から中堅ちゅうけんが輩出される。


「日ノ陰……あれは花咲はなさきさんではないか」


 隣の新海が震える声で言った。

 ルンルンとした足通りで試合場へと向かう花咲野々花。そして右手に握られているのは、奇しくも雛坂と同じ短剣タイプの得物だった。……ふむ。


 ここで雛坂が負けてしまうと新海は終わる。

 案の上、それを一番自覚しているであろう新海は顔をプルプルと震わせているし、恋中は恋中で腕組をして難しそうな顔をしている。


「……なあ恋中。今更だけど、雛坂じゃなくてお前が出たほうが良かったんじゃないか? ハイスペックなら、こういうのも余裕で勝てるんだろ?」

「……どうかしらね。私、アシストは得意だけど、ゴールを決めるのは得意ではないのよ。はっきり言ってこういう……自分が勝負するのは……ちょっと弱いかもしれない」

 言って黙り込んでしまう恋中。

 へえ……自分のことそんなふうに思ってのか。俺は全くそんなこと思わないんだけどなぁ。戦略は得意でも戦術は苦手、みたいな感じだろうか。


 そこで突然、にわかに歓声が上がる。

 俺は試合場に顔を向ける。するとそこでは、花咲さんと雛坂がお互いの胸倉むなぐらを掴んでいた。まるで試合前記者会見のボクシング選手ばりにメンチを切り合っている。


「てめえええ! 春樹くんになにかあったら許さねぇからな! その猫被り剥いでやる!」

「ウフフのふ~。私、これが素なの~。あ、でも雛坂さんって作らないと可愛くないもんね~」

「あ?」

「お?」


 瞬間、2人は右手に持った短刀を相手の頭に叩き込んだ。間髪入れず、さらに相手の頭に短刀を叩き込んでゆく。ノーガード、ゼロ距離、超至近距離による殴り合いだった。

 しかも2人は相手の首の後ろに手を回しているために、お互いに逃れることができず延々えんえんとしばき合っている。

 そんな2人の姿に周囲からは歓声が上がる。

 ボコン、ドコン、ボドゴンと音を立て、相手の顔面に短刀を叩き込んでいく。防具を付けているため、だからこそ手加減することなく全力で相手をぶっ叩いているのだろう。

 ……うわあ、酷い。ド〇・フライVS高〇善廣の試合みたいだ。しかも審判が居ないから誰も止めない。

 なんて思っていたが、


「ちょっと。ストップだ」


 さすがに見かねたのか二階堂が止めに入った。

 雛坂と花咲さんを落ち着かせ、注意をする二階堂。……まあ、そうだよな。だってこの場にいる皆、キャットファイトを予想してたのに、蓋を開けてみれば男らしすぎるブン殴り合いだもん。そりゃ止めるわ。

 ふと恋中を見れば「の……野々花」と頬をヒクつかせていた。


「……ああ野々花、ああああ野々花、ああ野々花」

「落ち着けって。セリフが俳句みたくなってるぞ」


 恋中はテンパると頭の働きが極度に鈍くなるからしい。


 で、二階堂の采配さいはいの結果、ペナルティとして両者お互いに一本とし、試合を再開させた。つまり同点だ。つまり、次に一本先取したほうが勝者となる。

 これで2人も反省して、もう少し節度のある試合になるだろう。そう思った矢先。


「ぬうおらぁぁぁぁぁぁぁぁ! いくでぇ花咲! 往生おうじょうせいやぁ!!」


 まるで任侠にんきょう映画ばりの雄叫おたけびびと共に突っ込んでいく雛坂。対する花咲は「じゃッッ!」と勇ましい声を発し迎え撃つ。節度のせの字もなかった。


 そんな2人を止めることを諦めたのか、二階堂は顔を引きつらせている。


 2人は地面に転がり、絡み合い、隙あらば相手の頭に短刀を叩き込もうとする。お互いにそれを防ぎ、どうにかマウントを取ろうと手足を絡ませあう。まるで、腹を空かせた蛇同士が共食いでもするかのごとく、身体を絡ませていた。


 が、次の瞬間、雛坂が動いた。花咲さんの脚を持ち、そのまま開脚させるような挙動を見せた。花咲さんのスカートの中の神秘が解明されそうになったのだ。


「「うひょおおおおおおおおおおおおお!」」


 突如のラッキースケベに花咲私兵隊が盛り上がる。ふと新海を見れば、ヤツはスマホを取り出そうとしていた。こ、こいつ‥‥‥。


「あはははは! あんたのファンに見てもえば?! その可愛いおパンツを!」


 そして雛坂が花咲さんの両足を開脚させようと体勢を変えた、その時。花咲さんが不適ふてきな笑みをこぼした。


「だ~めっ。恥ずかしい思いをするのは雛坂さん。今日は可愛い下着だったらいいね!」


 瞬間、花咲さんはゴロンと雛坂をひっくり返し、マウントを取った。そしてそのまま、グイと雛坂の両足を開脚させた。言えば、恥ずかし固めだった。


「あはははは! 雛坂さんの下着クマさんなの! 可愛い~。高校生なのにかわいい!」

「いやっ! 見ないでぇ! いやああああああ!」


 ニーソとスカートによる絶対領域は崩れ去り、股に食い込み気味の下着と、弾力の良さそうな白い太ももが覗いていた。


「「「やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 雛坂騎士団が踊り狂い始めた。そして俺と新海は、思わず雛坂騎士団の連中とハイタッチしてしまう。

 いやあ、すごい。実にいいモノを見れた。高校生でお熊さんパンツなんで絶滅危惧並にめずらしい。これを喜ばずにいられるだろうか。

 で、ややあってこの試合。花咲さんの反則負けとなってしまった。二階堂がみじんも下心を見せぬ面もちで二人に近付き、花咲さんを失格する判決を下したからだ。良い奴だなぁ、二階堂。そりゃモテるわ。


 ちなみにその後、その場に居た女子達からゴミを見る眼を向けられたのは言うまもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る