恋愛偏差値5の女
「お! やっと帰ってきたな
そんなことを言って
「そんなことあるわけないでしょー」と言ってクスクス笑う。
俺と恋中はそれぞれ、元々座っていた席に腰を下ろす。
「それで、恋中いろは。結局どうすれば
「わかってるわ。そうね、まずは……」
恋中は
そして
ふむ。恋愛マスター(笑)は役には立たない。となれば俺がどうにかするしかあるまい。といっても俺も恋愛偏差値20(推定)ぐらいの童帝。なんの役にも立たない。しかし、
頭を悩ます必要などない。というか鬼武の問題はもう
それには童帝が誇るべきは加速度的に人がってゆく妄想力と、自己
「そうだな鬼武。とりあえず……もっと可愛い系になってみようぜ」
「可愛い系……というのはどういうことだ?」
案の定、鬼武は
「そうだな。鬼武はカッコイイ系の女だ。で、それも災いして男共から女として見られていない、って可能性もある。だったらメイクとか髪型を可愛い系の……言い方はアレだが男ウケする方向にもっていけばいい」
「ふむ……言っていることはわかるが、実を言えば私は今の自分の姿が好きだ。それに可愛い感じの女の子には憧れはするが……そもそも似合うかどうか……」
「馬鹿野郎!」
俺はわざとらしく声を荒げた。瞬間、恋中と鬼武がビックリした顔で俺を見て来る。
「鬼武、てめえは何もわかってねえ。いいか? 可愛いものに、男ってのはめっぽう弱い。俺は、可愛いっていうのは、そんなに美人でもないヤツが男を落とすための手段だと思ってる。言っとくが鬼武、別にお前がブスだって言ってんじゃねえぜ」
突然、
「で、だ。鬼武。だからこそ、お前はもう少しばかり可愛くならなきゃいけねえ。いいか? 可愛いは正義なんだ。可愛いさえあれば問題ないんだ。だから鬼武、可愛くなって二階堂を落とそうぜ」
そんな事を言ってやると鬼武は「ううっ」と唸った。
「し、しかし日ノ陰縁。そうやって、あたかもイメチェンすると、なんだか必死な感じがして嫌われないだろうか。それならいっそ、今の私のままで
「馬鹿野郎!!」
またしても怒鳴ってみれば、鬼武はビクンと肩を震わせる。
「鬼武……てめえホントアホだな」
「なっ……なぜそんなに酷いことを言うのだ! 私は必死に――」
「それのどこが必死なんだよ。いいか鬼武。ありのままの自分を好きになってもらおうとか、思っちゃいけねぇ。好きになってもらうための努力を、放棄しちゃいけねえ。そして相手に好きで
俺は言葉を区切り鬼武をジッと見つめる。
「ソイツのことが本当に好きなら、相手に好きになって貰えるよう自分を変えることをいとわない。そうでなけりゃ好きとは言えないだろ。違うか? 鬼武」
「そ、それは……」
鬼武はしゅんとした表情で肩を丸め、そして何かを乞うようにして俺を見つめてきた。その眼はうっすらと濡れている。
だからこそ俺は言ってやる。鬼武雫の眼を見て、ちゃんと言ってやるのだ。
「それに鬼武……そうやって、自分のために可愛くなる努力をしてくれた女の子を、男は愛おしく思うもんなんだぜ」
言って俺は、鬼武にフッと軽く微笑んでみせてやった。すると鬼武は顔を
と、そこでチラリと恋中を見れば、彼女は机に突っ伏すようにして、肩を震わせていた。なんなら机がガタガタ音を立てている。笑いを堪えているのだろう。
ま、恋中は悪くねえ。はっきり言って自分でもなにを言っているのかマジ意味不明。童帝の類まれなる妄想力を駆使して、恋愛上級者が言いそうなことを創造しただけだ。ま、こんな言葉で鬼武が納得するわけが……
「分かったぞ日ノ陰縁! その申し出、試してみよう!」
……え?
鬼武の発言に、俺の口から変な声が出た。机に突っ伏し笑っていた恋中も顔を上げた。
「確かに日ノ陰縁の言う通りだ。私は好きになってもらうための努力を
鬼武は椅子から立ち上がるのと同時に、天井に向かって拳をガッと突き上げた。やるぞー、と声を発しながら。
そんな光景に顔を見合わせる俺と恋中。恋中は「えぇ……」という顔をしている。
「ちょ、日ノ陰くん。どうするのよ。オニムーやる気満々なんだけど」
「え、いや。だって俺適当に言っただけだぞ。どうもこうも、この先どうしようもねえよ。なんだ可愛くなるって。なにすりゃ可愛くなんの? どうすりゃ男ウケが良くるとか 俺知らねえよ? だって童貞だぜ?」
「私だって知らないってば。あそこまで言い張ったんだから責任とりなさいよ」
俺と恋中がお互いにディスリ合っていると、鬼武が「ときに!」と言って俺達のコソコソ話を中断させた。
「ところでどうやったら可愛くなるのだ? 何をすれば可愛くなるのだ? 髪型か? メイクか? それとも話し方なのか? 語尾に『ふぇぇ』とか付ければ可愛くなるのかふぇぇ?」
可愛さの方向性を勘違いした女、鬼武雫が爆誕していた。しかも語尾が全然可愛くねえどころか腹が立って仕方がない。
くっそお、もういい。ここまで来たら貫き通すしかねぇ。これで失敗しても鬼武を非モテのダークサイドへと誘ってやれば問題はない。居場所さえあれば人間は生きていけるのだ。
俺は鬼武に向かって「ちょっと待て」と言ってから、恋中にコソコソと話しかけた。
「なぁ恋中。たぶんだけど、お前って基本的になんでもできる人間だよな?」
そう聞いてやると恋中はコクリと頷く。
「それってさ、例えば教本とか読んだら一発で出来るくらいスゴイのか?」
「うん。見れば出来るわ。聞けば出来るわ」
「でも恋愛だけは出来ないんだよな」
「うん。恋愛偏差値は3くらいね」
自分で言っちゃうのかよ……まあいい。話は簡単だ。なんだかんだ言ってハイスペック人間、恋中いろはがいれば大丈夫。だが、準備が必要だ。
俺は恋中に対しこれから「なに」をするかを伝える。すると恋中は「それならわざわざ買わなくても、あの子が色々と貸してくれるハズよ」と言いながら携帯電話を取り出した。
そして恋中は携帯電話のコールボタンを押し、しばらく会話をしてから話をまとめ終わる。
そして俺達は3人連れ立って教室を後にする。目指すは、被服研究会の部室である。
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