あなたがキング、私がクイーン

浜ノ浦はまのうら高校プロム大会年表』


 1947年 第1回 後夜祭フォークダンス大会創設


 1965年 第18回 後夜祭フォークダンス大会    ※公開告白失敗。

 1966年 第19回 後夜祭フォークダンス大会    ※公開告白失敗。

 1967年 第20回 後夜祭フォークダンス大会中止 (学生運動の煽りを受け)

 ※翌年より『フォークダンス大会』と名称を改める。



 1986年 第18回 フォークダンス大会開催     ※公開告白失敗

 1987年 第19回 フォークダンス大会開催     ※公開告白失敗

 1988年 第20回 フォークダンス大会中止    (体育館焼失のため中止)

 ※翌年より『プロム大会』と名称を改める。



 1990年 第2回 プロム大会開催          ※公開告白失敗 

 1991年 第3回 プロム大会開催          ※公開告白失敗

 1992年 第4回 プロム大会中止         (前年度の不祥事のため)

 1993年 第5回 プロム大会開催



 2006年 第18回 プロム大会開催         ※公開告白失敗

 2007年 第19回 プロム大会開催         ※公開告白失敗 

 2008年 第20回 プロム大会中止        (大雪により休校)

 ※翌年より『浜ノ浦高校プロム』と名称を改める。



 昨年度 第○×回 浜ノ校プロム大会開催      ※公開告白失敗


 ※1968年以前は女子校であったが、催しの一環として告白大会が存在した。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「なんだこれ?」


 用紙から顔を上げ、恋中を見る。

 ざっと見たところ、この学校の行事であるプロムの年表をまとめたものらしい。だが、これがなんだというのか。てか、あの行事、名前を変えつつもビックリ長い歴史があるらしい。

 すると恋中は続けざまにファイルから用紙を引き抜き、それを手渡して来た。


「説明は後、次はこっちを見て」


 釈然としないが、新たに手渡された用紙に顔を向ける。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『浜ノ浦高校 カップル誕生数・破局数 年間」


           誕生数   破局数


 1986年         158     32

 1987年         31     155

 1988年         203     26


 1990年         159     35

 1991年         45     200

 1992年         45      20


 2006年         140     49

 2007年         51     142

 2008年         218     23


 ※1968年の共学化に伴い新聞部が調査を開始。

 ※それ以前は女子校であったためカップル年間破局数の記録なし。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は用紙から顔を上げた。

 こちらの用紙は、この学校における年間のカップル誕生数と破局数をまとめたものらしい。そういえば校内新聞に毎月そんな調査結果が乗っているのを思い出す。

 いや、しかしだ。これがなんなのか、本当にわからない。というより、これのどこが恋愛賛美な我が校の風潮ふうちょうをぶっ壊すのに関係しているのだろうか。

 そんな俺の考えを読み取ったかのように恋中はこくりと頷いた。


「じゃあ、まずは最初に渡した用紙を見て。で、見たらわかると思うけど、あのプロム大会って過去に何度か中止になっているの」


「あん?」


 俺は最初に渡された用紙を見てみると、確かに何度かプロム大会が中止になっている年がある。へえ、中止になることもあんのか。

 てか、中止になった理由が「体育館の焼失」とか「学生運動の煽りを受けて」とか物騒すぎんだろ。

 すると恋中は右手を伸ばし、人差し指で俺が見ている用紙をトントンと叩いてきた。


「それで日ノ陰。このプロムが中止になった年度。なにか共通点がない?」


 そう言われてもう一度用紙を見る。が、すぐにわかった。てか、こんなことあるのか。


「……公開告白が二年続けて失敗したら、次の年のプロムは中止になってる……のか?」

「その通り。の。過去中止になったプロムは、すべてそうなのよ。なぜか、ね」


 恋中がクスっと不適な笑みを浮かべた。

 まあ、公開告白ってのは浜ノ浦高校プロムの大トリを飾るイベントである。

 で、この公開告白ってのはその年のプロムキング&プロムクイーンが全校生徒の前で行うことになっている。


 そしてキングとクイーンというのは、つまるところ『今年のプロムで一番輝いていたペア』を投票で決定し、男にはキングという称号を、女にはクイーンという称号が授与された人間のことを言う。

 

 クイーンとキングに輝いたペアが恋人同士であれば愛の告白を、恋人目前であっても愛の告白を、ふざけて参加したとしても愛の告白をすることになっている。本場プロムのちょっとした焼き直しみたいなもんだ。


「ふうん、なるほど。そういうジンクスみたいなのがあるのかもな。てか、恋中……」


 なんとなくでしかないのだが、恋中の言った「恋愛至上主義ぶっ壊し計画」の片鱗を垣間見た気がしたのだ。しかしこれは……


「もしかしてこのジンクスじみたのを信じて、どうにかして今年のプロムの公開告白を失敗させて、それで次のプロムをぶっ潰すとか考えてるわけか?」


 恋中は、コクリと頷く。


「その通り。今年のプロムの公開告白ワザと失敗させて、ジンクスじみたものを発動させるの」

「ちょっと待て、さすがにこんな偶然の産物を信じるってのは無理があるだろ。それに‥‥‥」


 言って俺は口ごもる。

 仮にこのジンクスとやらを信じ、今年の公開告白を失敗させ、もし本当にジンクスが発動したならば今年度のプロム、つまり俺達が三年生になったときのプロムを中止に追い込むことができるだろう。だがそれは、プロムを潰すことは出来ても、この学校の恋愛賛美な風潮をどうこうできるわけではない。てか、そもそもこんなジンクスを信じる人間なんてどうかしている。

 そんな俺の考えを察したのか、恋中は「まあね」と肩を竦める。


「たしかに、これだけじゃ偶然って片付けられるかもしれない。それに恋愛賛美な風潮をぶっ潰すことにも繋がらない。でもどうかな? 最後に渡した資料を見てもそう言える?」


 恋中は机の上にある用紙を指でトントンと叩く。


「さっき見てもらったけど、この用紙は年度ごとのカップル破局数をまとめたもの。で、日ノ陰、なにか気が付かない? この2枚の資料を見比べて」


 恋中が有無を言わさぬ顔をしているため、俺は素直に二つの資料を照らし合わせてみる。


 あー……なんだろ。照らし合わせるってことは、照らし合わせることで恋中が言わんとすることがわかるってことだろ? でも俺、童貞だしなぁ。女の子である恋中の気持ちなんてさぱっりわからねえ。女の子が言う「優しい人」って言葉の意味不明さは異常。

 と、そんな事を考えていながらも、気が付いた。


 これも偶然と言えば偶然なのだが、はっきり言って気味が悪い。つい必然性すら感じてしまうほどの不気味さがあった。


「……あれだな。公開告白が二回連続して失敗したら、校内カップル破局数が異常に増えてる」

「その通り。プロムの公開告白が二年連続で失敗したその年から、カップル破局数が急に増加する。プロムが中止になった前二年は、絶対にその通りになっていの」


 そこで恋中は息をスッと吸った。


「それで日ノ陰。覚えてると思うけど、昨年度のプロムの公開告白は失敗している。だから、もし今年度のプロムで公開告白が失敗すれば、2回連続で公開告白が失敗したことになって、次の年のプロムをぶっ潰すことができる。そして今年度のプロムの公開告白が失敗すれば、この学校のカップル破局率が急激に上がる。つまり……」


 恋中はそこで言葉を区切り、ニッと笑った。


「少なくとも、私たちが卒業するまでは、この学校の恋愛至上主義はぶっ潰れてくれる」

「……へぇ」


 気が付けば、自分の口角が吊り上がっていることに気が付く。いつの間にか笑っていたらしい。たぶんこの笑い方は、先ほどから恋中が見せている不適な笑みと同じように思えた。


「こんなの信じるなんてどうにかしている……でも、信じてみたくなる話ではあるな」


 今時、こんなオカルトじみたことを信じる人間などいないだろう。ただ、それでも、だからと言ってお化けとか迷信だとかを、全く信じない人間というのも少ない。

 その土地に立ったお店は絶対に潰れるみたいなヤツだ。なにかしらの心理的な要因でも働いているのだろうが、説明も解明もできない摩訶不思議な現象。もしくは風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな話。


 ただ、このジンクスを信じるかどうかは別にしても、問題がある。というか問題しかない。


「ま、半分くらい信じてやるさ。でもよ恋中。そもそもこのジンクスを発動させるには、プロムの公開告白を失敗させないといけないわけだ。それどうすんだ?」

「そんなの簡単じゃない。むしろそれ以外に方法があるのかしら?」


 そうして恋中は言い放った。


「アナタがキングになるのよ。そして私がクイーンになる。それ以外に方法はないわ」


 嬉々として、嫌らしい笑みを浮かべながら。



 


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