第96話 再会の主従
「この魔力……! やっぱりローラだわ!」
俺は隣を走るジンタロウの腕に抱えられているマリアの言葉を聞いた。
「マリアが吸血鬼との混血だから最初解らなかったけど、
そんな俺の言葉に、ジンタロウが首を傾げた。
「お前、吸血鬼の魔力は判らなかったのに、
「一度目の勇者時代、魔王時代は
そんな俺の言い分に反応したのはマリアだった。
「……ねえ、さっきもそんな話を聞いたけど、どういう事なの? 魔王をやっていたって、どう見ても貴方は人間よね? 魔人、とか言っていたけど……」
「ん? ……あー、接触地点までそれなりに距離あるし、いいか。客としてアルカ・ディアスにいるつもりなら話しとく」
マリアが『再起』にどれだけの時間をかけるかは知らないが、現状における彼女の手は少ない。何をするにしても、準備は必要になるだろうし、そうなると必然的にアルカ・ディアスに滞在する期間も長くなるだろう。
「俺は元々この世界の生まれじゃないんだよ。幾つかの世界を経てたどり着いた、異世界人だ。それで、ここまで過ごしてきた世界じゃ、人間側で勇者やってた時もあれば、魔物側で魔王やってた事もあるって話だ」
そんな俺の台詞に、マリアが目を丸くして問うてきた。
「い、異世界って……本当にそんなのあったんだ……。人間が別の世界から魔王に対抗できる人材を召喚しているって話は聞いたことがあったけど……」
「それ、場合によっては魔王側もやってたり、魔王自身がそうだったりするからな?
俺の話に戻るけど……魔王時代、世界の魔物は基本的に俺の傘下だった。だけど、さっきも言った通り、その世界に吸血鬼はいなくてなー。二度目の魔王時代だって片手で数えるしか遭遇しなかった」
それゆえ、昨晩吸血鬼を大勢目にしたときは、内心感動したものだ。その後、倒してしまったが。
と、そんな事を思っていると、ゼルシアが、
「逆に
「なるほどな……。しかし、ゼルシアは何故不機嫌そうなんだ」
前方を飛ぶゼルシアの声の調子に、ジンタロウが疑問を抱いた。
心当たりはある。
「あー……
「……展開が読めた気がするぞ」
ため息交じりにそう言われるが、言い訳はある。
「否、俺もゼルがいる手前、基本的にそういうのは部下の方に任せてたよ? ただ、
「……サキト様も当時は魔王としてお忙しくされていましたし、勢力維持も必要なことでした。よって、仕方がない事のは理解していますが、それとこの感情は別なので、思い出した分、サキト様にはお相手してもらう所存です」
「あれ? 俺、責められてる?」
「否、最終的にWin-Winだろ、お前らだと」
「あ、やっぱりこの二人はそういう関係なのね?」
何か、マリアが目を輝かせているが、乙女思考とかその辺りだろうか。
魔人連中は『そこ』までいかないからか、アルカ・ディアスでこの手の話が話題に上がるのもあまり無い事だ。亜人もいい歳してるのは何人かいるが、その辺りの話は耳に入ってこない。
「そういえば、人間って魔物と違って魔力の淀みが少ないから、摂取する側は楽って話を聞いたわ。
……そ、それに、夢に入り込むより現実で直接搾り取ると効率が良いらしいわね?」
一瞬前までの話題と落差がひどい。否、変わらないか。
「こいつらの教育はどうなってるんだ」
ジンタロウが呻くが、対する俺は、
「否、
俺の肯定に、マリアがそうなんだ……と関心の声を上げ、続ける。
「あ、あと気になると言えば――――知り合いに、人間の子どもの雄はサイコー! って言ってた夢魔が居たんだけど、そうなの? 普通、成熟してる方が魔力の質とか上だと思うんだけど……?」
「それはもう趣味趣向というか、性癖だから参考にしなくて良いと思うわー。というかうちのやつらで試したりするなよ? 普通に追い出すからな?」
目を細めて言った俺の言葉に、ジンタロウの腕の中でローラが慌てて否定する。
「し、しないわよ! ローラにだって、『姫様に相応しい雄が見つかるまでは実践を控えてください』とか釘刺されて、した事無いし!」
もう、なんかの宣言だよなーそれ、と思うが、魔物と人間でその辺り考えが異なる場合が多いし、マリアのためもあるので、黙っておく。
「…………皆様、その辺りのトークは今夜まで取っておくのが宜しいかと。そろそろ対象と接触します」
前方を飛ぶゼルシアから報告が入る。
「微エロトークしてる間にいつの間にかもうそんな近くかー」
「エロトーク言うな。というか、話題の元はゼルシアじゃなかったか、まったく……」
ジンタロウがそう言った時だった。
「―――姫様!」
前方から、女の声が届いた。
「お出ましだ」
木々が薄く、開けた場所で、主従が再会を果たす。
●●●
「ローラ!」
ジンタロウは己の腕から地に降りたマリアが朱色の髪を持つ
無論、魔力の反応で人間とは全く異なる存在だと理解している。ゆえに、『人間らしい見た目』と『魔物だという脳内での理解』に差が生じ、違和感を持つ―――のは昔の話だ。
今は逆に、
(慣れてしまっているな……。まあ、四六時中、
元勇者としてはどうかという部分もあるが、今更な話だ。魔人たちが進んで他者を害するような性質の存在では無い事は知っているし、彼らがそもそもサキトの傘下に入った理由も帝国の『勇者』と思われる存在に一部起因する。
(結局、何処からの『視点』かが重要で、『種』は関係無い、か……)
数か月前の俺には理解できないものだな、と自分への感想を作った時、ジンタロウは気付いた。
「――待て、ゼルシアの話では人間の反応もあったという話だったはずだ」
今、視界に入っているのは朱髪の
「はい。最初の感知からここまでは反応が弱く捉えられずにいますが……」
「俺らもそうだけど、ゼルが感知できないとなると……」
考えられるシナリオとしては、
「まさか……喰ったのか!?」
この
道中で捕獲したとなれば、この周辺に人間がいたという事にもなるゆえ、それもまた問題だが、今は追及の時間だ。
眉間にしわを寄せ、鋭い目で夢魔を見ると、彼女は首を横に振り、そしてこちらを指差した。
「その……おそらく、その人間というのはそこにいるユキの事ではないかと」
「――あ?」
何を言っているのかと、後ろを振り向いた。そして、同時に声が聞こえた。
「あ、私の事です?」
銀髪の女が、笑みを浮かべて真後ろに立っていた。
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