第70話 集落からⅠ

 サキトたちが亜人たちを保護し、翌日に魔石を含めた多種の鉱石を採掘できる場を見つけてから二週間弱が経った。


 森の中では、朝から魔人たちが己の役割を全うするため、せわしなく動いている。


 この短期間の間に、集落はさらなる成長を続けていた。

 

 バルオング、ジョルトが合流した事で、建築系、生産系、戦闘系の指導側に各々の担当が生まれ、今までジンタロウがカバーできていなかった建築、生産系の作業効率が格段に上がったのだ。


 変わったのは効率だけではない。


 まず大きな変化として、全体的にスキルを持つ魔人が増えたのが大きい。


 今まで、フラウやミリアのような人間に近い外見を持つ魔人たちがスキルを発現する傾向にあったのだが、ここにきて、ガルグードなど元々の魔物の姿を保つ者たちもまたスキルを発現させてきたのだ。


 スキルの内容はそれぞれ特徴があるようだが、先行してスキルを発現させていた者たちよりは能力にある程度の差があるようなので、やはり魔物の頃から人間に近かったフラウたちは特殊な存在なのだろう。


 次に、建築。こちらは進展というよりも展望だ。


 先日、魔石を含む良質な鉱石を発見できた訳だが、あの峡谷一体は建築に使えそうな岩石も豊富なため、今まで木材を主体としていた建築物に変化をつけることができるだろう。今後、鉱石を精錬する『炉』の作成をするつもりでもあるため、こちらも期待できる分野だ。


 生産面もやはり進展していた。


 収穫サイクルの短い農作物は、既に一連の流れができていた。俺が改良している事もあり、成熟速度がかなり速く、その割には味も変わらないため、野菜等で困る事は無いだろう。


 ここに簡易的なハウス栽培に移行させた長期サイクルの農作物も考慮するとレパートリーが増えるのは喜ばしい事だ。


 北の草原に多数生息しているうち、ヴォルスンドで飼われている家畜と近い種類の動物も捕獲。さすがに家畜化させるのは至難でそれなりの年月はかかるだろうし、調教も一筋縄にはいかないが、ジョルトを中心に頑張ってくれているので、こちらも期待できるだろう。


 亜人の子どもたちも、ここの環境を見て、残ることを決めたらしい。


 今は魔人たちに混じって、自分ができる仕事をこなしている。


 俺、ゼルシア、ミドガルズオルム、ジンタロウ、バルオングを除いた面々のうち、魔人は五十人居る。五体のスライムが合体し、マスオが生まれたため、もともとの数よりは減っているが、あまり気にするところでもない。


 そして、三体の魔竜だ。未だ、言葉を話すことは出来ないが、こちら側が話す言葉の意味は捉えているようなので、コミュニケーションに問題は無いだろう。


 亜人についても人数は把握済みだ。


 まず、大人は若返ったジョルト一人だ。


 次に年齢が二十を超えた青年組が男三人に、女五人。リイナもここに含まれる。


 それ以外は十代以下だ。少年が十九人、少女が十七人である。


 一気に平均年齢が下がった気がするが、魔人たちも想いの外、年齢層は低めなので、中間層が少ないという結果になる。


 人数としては単純に倍化、しかし、幼児や少年少女に大規模な作業を手伝ってもらうわけにはいかないので、その辺りは機工人形の出番だ。


 ここ数日で機工人形を新たに製造し、いまや人よりも多くの数が森の中を歩き回っている。



●●●



「――いや、子どもたちの住居が完成するのにどれくらいかかるかと不安だったが、内装も含め、わずか二週間で完成してしまうとは……」


 平屋建ての中規模な住居を前に、ジョルトが俺に話しかけてきた。


「あの機工人形というのはすごいな。あの小さい身体で大の大人が持つような木材を切っては運び、組み立てていくとは……」


「ん、まあなー。扱いに関しても、今まで魔人たちにもサポート代わりでつけてたし、さすがにみんなそろそろ慣れたのか、動かし方が上手くなってきてる」


 機工人形は基本的に単純な命令しか受け付けない。だが、きちんと的確に、順序良く指示を与えれば、あれほど便利な右腕もそう居ないだろう。


「頼りすぎて本人たちの腕が成長しないんじゃ意味無いけど、今回は急ぎだったし、仕方がないな。ちなみにみんな寝てる間は俺が総括で動かしてたから、元々の工期は倍だったな」


「む、そうなのか。夜間に音などはしなかったが……」


「みんな寝てる間にやかましい音させる訳にはいかないだろー。防音結界張った上でやってたんだよ。さすがに三桁近くの機工人形同時運用は初めてだったからきつかったけど、平屋にしたのが功を奏したな、二階建てだったらこんな簡単に出来てないぞ」


「いや、本当に助かる。

 ――しかし、青年は大丈夫なのか? その話し方だと寝ていないのではないか?」


 確かにジョルトの言うとおり、この一週間ほぼ睡眠はとっていない。


 昼に寝ていたかといえば、そういうわけでもなく別件に手を入れていたので、文字通り不眠不休だ。


「大まかな基礎自体は出来てたから言う程じゃない。

 夜元気なやつらも手伝ってくれたのもあるけど、睡眠なしでやばくなるのは最初の魔王時代に克服したから大丈夫だし」


「そ、そうか……」


 ジョルトが若干要領を得ないようなのは、俺が魔王状態の姿を見せていないせいだろうか。


(まあ、魔人たちやジンタロウにも見せたこと無いし、そもそもここしばらくはなってないしなー)


 なる必要が無かったので、なっていないだけで、魔王状態あの姿に忌避感などはないが、人間状態よりも動きが大雑把になるのと魔力の『扱い』が雑になる短所があるので、あまり好んでなるものでもない、というのが俺本人の見解だ。


「あと中の方はもう見たとは思うけど、家具とかは用意できてないからそこはみんなで作ってくれると助かるな。寝床に関しては子どもたち――特に若いやつらには毛布とかタオルを多く支給するから優先してやってくれ」


 これらは自前で持ってたものやフランケンで購入したものだ。魔人と亜人全員分は無いため、上手く調整する必要がある。


「それぐらいは大丈夫だ。むしろ、男子たちは面白がって自分からやり出すだろうさ」


「あー、男子は工作好きな傾向あるから、いいんじゃないか」


 それはどこの世界も同じだろうか。


「それと、子どもたちへの配慮も本当に感謝だ」


「いいっていいって。衣食住を保障するって言ったのは俺だし」


 魔人同様、亜人たちだって、俺の下にいるならば、約束は守る。


 そんな話をしていた時だ。


「……何だサキト、お前、もう作業はいいのか?」


 声がした。


「ジンタロウか。こっちの方は一段落したから休憩中。そっちこそ、もう鍛錬は終わったのか?」


 右手に籠を持ちながら軽装でやってくるジンタロウにそう返した。


「ああ、こちらも午前中はもう終了で、今は昼休憩だ。ほれ、お前とおっさんの分だ」


 受け取った籠の中身はもう既にわかっている。


「さっきゼルが昼食ができたって言ってたなぁ」


 中に、カツサンドが入っていた。

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