第68話 今後の課題

 主からの問いに、フミリルは、まず周囲がどのような反応を示すかを見る事にした。


 正直、自分の良いところは今回は無かった。ともすれば課題だらけなのだが、それはそれとして皆がそれぞれどのように己自身を見ているか気になったのだ。


 両手を頭の後ろで組んだミリアが最初に反応を示した。


「えー? これと言って無いんじゃないかなー……あう?」


 そう言ったミリアが次の瞬間、フラウに顔を掴まれていた。


「ミーリーアー! 信じてたのに簡単に壁壊されたの忘れてないよ!」


「いひゃ! いひゃいよーフラウー」


 フラウがミリアの両頬を指で引っ張る。


「んー、悪いところかぁ。そういうの、自分で探したりするのって結構難しいよね。アサカとかもぱっと出てこないし」


 そんなアサカの言葉に、フミリルは多少迷いながら、しかしため息をついて言葉を作った。


「……アサカはやはり武装の扱いを練る事が最優先かと。その鎌は確かに強力だと思いますが、その分、剣などよりも取り回しは難しいと判断しますです」


 実際、自分たちの教官役となっているジンタロウが扱うのも剣と盾で、鎌の扱い方には困っている節があった。


「あー、そうだね。さっきも持って飛びかかるだけだったし、なんかまだ使えてないやつもあるし」


 苦笑しながらアサカが答えた。


「確か、アサカの鎌は機能制限されているんだったか?」


 ジンタロウがサキトに問う。


「というよりはそれ、プロトタイプなんだよ。簡易的な変形機構はぎりぎりついてるって程度で、現状搭載しようと考えてる分の一割程度しか機能がついてない」


「……ということは単純な発想だが、アサカは今の十倍以上苦労する訳だ」


「うぇ!? アサカ聞いてませんよそんな事ー!」


 サキト様が言ってないからか、貴女が聞いていないからだと思うです……、と声には出さずに思いながら、続ける。


「――話を戻しますですよ。フラウがバルオングさんと対峙している時、ボクは直接見てないので何とも言えないです。

 ミリアは端的に言って、スキルの強化、これに尽きるかと……です」


 もっと言えば、予想外の展開になった時に焦った事も残った課題点として上がる。


 今後の戦闘で相手になるのは何も格下ばかりではないだろう。


 主であるサキトが女神などという途方も無い存在と敵対しているという事はわかっている。よって、自分たちは今後もバルオングやジンタロウ、場合によってはサキト並の相手と、で戦う事になる可能性だってあるのだ。


 そんな時に頼りのスキルが通用しなかったからと狼狽して、次の対処が出来なくなる、などという事はもっての外だろう。ただこれは場数の問題でもあるだろうから、スキルの強化とあわせてそんなに簡単なことではないのも確かだ。


「マスオは身体強化は思ったよりも丈夫そうなので、問題はバルオングさんに容易に持ち上げられた事――つまりは重量の問題かと」


「自分、この見た目で体重は皆様より軽いですからな!」


 自分含め、女子面子がマスオに半目を向けるが、スライムだし仕方がないのだろうか。

 そして残るのは自分だ。


「ボクは……ボクは、悪いところばかりです……」


 自分が最も課題が残った、と思っている。最初の接敵から、最後の攻撃まで、何一つバルオングには通用していない。これでは実戦で役になど立てないのではないか。そう思うと焦りが出てくる。


 先程、ため息をついたのもこれが理由だ。自分ができていないのに、他者に対してどうこう言うのは気が引ける。


 しかしだ。フミリルは生真面目ゆえ気を張りすぎている部分がある、というのは彼女自身も気付かない点だった。


「あー、いやいや。フミリルは正直一番良かったから、課題は特に無いぞー」


「……え?」


 予想外の言葉がサキトから来た。


 その隣、バルオングも頷き、


「そうであるな。我輩の接近に最も素早く反応したのはその少女であった」


「というか、そもそもフミリルは前衛での直接戦闘向きじゃないだろう」


 ジンタロウが言った事に、それは確かにそうだ、とフミリルは思う。


 自分はスキル的に隠密での奇襲や妨害、後方支援が主で、真正面からの一対一もどちらかと言えば感覚的に好きではない。


「あぁ、あと俺が昔作った武器程度じゃ、爺さんの強化された身体に対応するのも難しいと思う」



●●●



 今、フラウとアサカ以外は俺が昔に作った汎用武装しか与えていない。マスオに至っては素手なので、いずれ彼にも工面する必要はある。


「マスオの武装についてはおいおい考えるとして……戦闘系の魔人たちにはそれぞれ専用の武装を造ろうと思ってるんだ」


 これは、今後どれほどの質の魔石をどれだけ手に入れられるかによるが、既に基本設計などの準備段階は進めている。


「ただまあ数は多いし、個々の専用となると時間はかかるから、優先はスキルを持ってない連中になるけどな」


 スキルがあるだけでかなりのアドバンテージな状況に強力な武装を加えてさらに伸ばすという方針。これは俺の中では選択肢として無い。上と下で差が開きすぎるからだ。そうなると今後の活動の中で負担が偏ってくる可能性もある。


 そんな俺の言葉にふと、フラウが首を傾げた。


「あれ、でもあたしはスキル持ちですけどヴィンセントを貰ってますし、アサカもですよね?」


「フラウはみんなより先にスキルが発現してたし、俺も内容は知ってたからな。

 アサカは――最初、スキル持ちじゃないと思ってたんだ。それで武器作ってたらスキル持ちだって言い出して……つまりは報告遅いんだよお前! おかげでスキルと微妙にかみ合わない武器になっただろうが!」


「あれ!? アサカ怒られてる!?」


 うんうんと皆が頷く中で、俺は続ける。


「ちなみにフラウはフミリルと同じで動きと対応の手順は良かったから精進続けるように」


「あ……はい!」


「みんな、実戦経験はまだまだ少ないからな。その辺り、経験積んでいけば自ずと馴染んでくるとは思うよ、スキルにしても武装にしても」


(――実際、こいつらは成長が早いのは確かだ)


 彼らがまだ魔物だった頃からまだ約二週間も経っていない。ジンタロウが思いの他、教官役というものに適役だったのか、彼らの潜在能力が高かったのか、それとも両方か。


 どちらにしろ、とは言え、バルオング相手にあの対応が出来るのは並大抵ではない。身内評価になるが、元は人間のバルオングとて、一般的な勇者(勇者が一般的というランク付けがあるかは別として)と同等かそれ以上の戦闘力を持っている。


 少なくとも、経験の少ない新米兵士や低ランクのギルドの人間では歯が立たないだろう。


 そこに専用武装を持つとなれば、中々に強力だ。


「とりあえずだ。今後、爺さんも加わって、鍛錬のレベルも上がるから……ミンナガンバレ」


「最後なにか投げやりじゃないか?」


 とは言え今後は俺ももっと関わらないと、と思いつつ、次の話に移行する。


「で、こっから本題入るんだけど。

 爺さん、


 これは、魔人たちの戦闘力ではない。元々、彼に頼んでおいた仕事についてだ。


 頷いたバルオングが言葉を並べる。


「ああ、そうであった。

 ――報告としてはまず、この場所についてである。地上を上層とした場合、ここは中層という位置づけであるのだろう。岩壁の表面など、見て取れるだけで鉄資源などが確認できた。であれば、埋まっている資源は豊富であり、採掘場としては優良だと我輩は判断する」


「魔石はどうだ?」


 肝心なのはそこだ。鉄を始めとした資源も確かに俺たちには必要ではあるが、魔石ほど採れる場所が限られている訳ではない。


「うむ、率直に答えると機工人形たちが掘り出したものがここに」


 バルオングが言って、懐から何かを取り出した。


 それは、黒の色を持った鉱石であり、


「……魔石だな。しかも、そこそこの品質だ」


 少なくとも、フランケンで見かけたものよりもずっと良い代物だ。


「これはこの層で採れた物であるが……実は下層に下りる空洞を見つけたのであるよ。これがなかなかの発見であり……」


「へえ……?」


 それは興味深い。昔からバルオングは俺の好奇心を擽るのが上手い。


「かなり降りることになるのであるが……」


 バルオングがちらりと皆に目を向ける。


 ああ、と俺はその意図を理解する。


「と、なると、あんまり大人数も問題か……。ジンタロウー、ちょっとバルオング爺さんがここよりも下の層を見つけてるらしいから俺もちょっと見てくる。みんなはこの辺、機工人形たちと一緒に詳しく探索しててくれないか」


 機工人形たちでは見つけられなかった要素も見つかるかもしれない。


「そうだな、緊急時はどうする?」


 言わずともジンタロウから問いが来るのは彼が馴染んできた証拠か。


「だいたいは魔力感知向けてるからすぐわかると思うけど、念のため、フミリルかジンタロウが連絡よこしてくれ。ジンタロウはアルカナムのテストしてもいいしな」


 遠距離魔力通信が出来る程度の魔石は手持ちで簡単に用意できていたので、既に実装済みだ。個々をテストの場にしても何の問題も無い。


「じゃあそんな感じで、行ってくる」

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