第64話 峡谷内の現場Ⅱ
「わわっ!? 真っ暗!? みんなどこ!?」
慌てるミリアの声が響く。
明るい日の下から、その光が届かない洞窟内に転移した事で視界が急激に悪化し、パニックになったのだろう。
「ミリア、落ち着いて。みんないるよ」
「魔力強化すれば、ある程度見えますですよ」
「え!? あ、そっか!」
フラウとフミリルのフォローで、ミリアが落ち着きを取り戻す。
「あ、見える。はあ、びっくりしたー……サキト様! いきなりすぎですよー!」
ミリアが抗議の声をあげるが、俺は逆にミリアの頭頂部を手刀で軽く叩く。
「馬鹿。これが戦闘だったらやられてるぞー。というか、さっき谷底覗いた時に視界強化するのサボったな?」
「……あ」
間髪入れずに二度目の手刀を入れられたミリアが
「あ、あはは……でも、あたしもさすがにびっくりしました」
フラウが言って、周囲を見渡す。
「ここが目的地ですか?」
「移動先って意味合いではそうだな。本来の目的地はまだ先だよ」
ここはまだ洞窟の入り口に当たる部分と言ってもいい。
俺はとりあえずの処置として、持続性のある光魔法を付近の岩壁に貼り付ける。
「そもそもここはどういった場所に当たるんだ?」
問われる。
「さっきの峡谷の崖のある一箇所から入れるのがここな。そこを夜の内に機工人形が見つけたってんで、この先に何があるかの調査をしてもらってた」
言って、手で奥を示す。
そちらにあるのは、
「何かがあったのか?」
「……まあ、とりあえずもう少し奥に行こうか。足元、気をつけろよ」
皆に周囲を促し、歩き始める。
殿をジンタロウに任せ、等間隔で洞窟の通路を照らしながら歩く事、数分。
「うわ、何ここ」
ミリアが驚きの声をあげる。
そこにあったのは、広い空間だった。
●●●
ジンタロウは最後に通路を抜け、その場所に入った。
一瞬、自分たちは外に出たのかと錯覚した。何故なら、目の前の光景が先程見た峡谷と重なったからだ。
だが、違う。
自分たちは今、洞窟内部にいるはずだ。仮に外に出たとしても今はまだ昼前で、夜ではない。
上方、壁や天井となる岩肌には既に先程からサキトが使っている光魔法と同じものが数多く付着している。場を照らすそれらはまるで星空のような演出を醸し出している。
そしてジンタロウはこの光景に一つの覚えがあった。
「これは……鍾乳洞か?」
「成分は調べてないから『鍾乳洞』って言っていいかはわからないけど、この地底峡谷も成り立ちとしては似たようなもんじゃないかなー。ほら」
サキトが示すのは、地底峡谷の底だ。外の峡谷よりもかなり浅いその谷底はしかし、外と同じく水が流れている。ただ、深さ以外で異なる点があるとすれば、水の流れが外のような急流ではなく、穏やかなものであり、ところどころではいくつもの水溜りが形成されている。
「こういうのが初っ端から見つかったのはいいけど……じゃあここでちょっと所見とか訊きたい」
「所見……ですか?」
フラウが首を傾げる。
「うん。そうだなー……ゴブリアの二人はどう思う?」
問うた先、そこにいたのは肌が薄緑色であるゴブリン――否、ゴブリアの男女だ。
元々ゴブリンであり、魔人となったことで二回りほど身体が大きくなっている者たち。進化しているため、便宜上新たな種族としてゴブリアと呼んでいる。人間に近い、という意味ではホブゴブリンと呼ぶべきなのかもしれないが、あえて新しい名称にしたのは、彼らが魔人という存在である事も一つの理由にしている。
今回はその十五体の内、二体、双子のゴブリアが同行しているのだ。
「……すみません。どう答えたものかと困っています」
俺の問いに、男の方、サビアが正直に返してきた。
確かに、訊き方が悪かった。ゆえに、次ははっきりと、
「じゃあ、明確に訊くか。
――ここまでの通路、あとはここもそうだけど、自然に出来たものだと思うか?」
「……! そういう事ですか」
サビアが納得したように頷く。
俺が言いたい事が伝わったようだ。
「――少なくとも、ここまでの道中でゴブリンの形跡は見られませんでした」
「あたしもサビアと同じ意見ですかね」
サビアと、サビアの姉であるネビアが言った。
ゴブリンはこのような洞窟内部に潜む事も多い。
この場所も彼らが住まう場所としては最適だろう。
「まあ、あたしらは元々平地のゴブリンだったから、山岳地とか地下に居るゴブリンの事はあんまりわかんないですけど」
「生息環境が変わると同じ魔物でも行動原理は大きく変わるものな」
勇者として一通り魔物についての知識があるジンタロウが呟く。
「まー、その辺りはもっと根本的な、生物学的な話になりそうだけどなー。他、何か気になる点とかあるか?」
「アサカは特に無いです、オーガってこういうところに来る事ないですし。ミーちゃんもだよね?」
「うーん、そうだねー。もっと寒いところに住んでるんだったら、寒くない洞窟の中とかいいかもしれないけど、そもそもこことか狩りに出掛けるのすら大変そうだし、ガルフ系もいないと思うー」
アサカとミリアがそれぞれの種族からみた所見を述べる。
「――はい、あたしもこの洞窟に不自然なところというか、誰かの手が入ってる感じは無いと思います。まだここまで
目元に手をやったフラウがぽつりと言った。
「ボクも言う事は無いです。あえて言うなら、フラウの《暴く者》がそういう判断を下したならば、信頼できるかとです」
「ふうむ! スライム程度ならば存在するかもしれませぬが、サキト様や他の皆様方、自分の敵ではございませぬなあ!」
最後、非常に暑苦しいのが気になるが、
「魔人連中は特に何も感じていないか。俺も意見はそっち側ではあるが。そもそも入り口の場所がかなり厳しいんだろう? 別の入り口があるならともかく、ここまでの経路はほぼ無いんじゃないのか」
最後にジンタロウが言う。
「なるほどなあー。みんな、
言った時だ。
「ほほ、御待ちしておりましたぞ」
いきなりの声が響いた。
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