第58話 文明開化を始めようⅡ
「話を衣食住の観点に戻すけど、『衣』に関しては、今言ったとおり、素材とかを見つけて亜人組を交えて作っていく方向でいこうか。あ、デザインは俺も混ぜてもらうからな、そういう方針で。
――次、『食』な。ぶっちゃけ一番重要なのはこれだ」
食は生命の存続に関わる。実は、俺やゼルシアはその辺りどうにでもできるのだが、今は触れないでおく。
「それについて、報告だ」
こちらが何かを言う前にジンタロウが挙手した。
「この状況を見てわかるように、今日の昼頃に狩りをした訳だが……、正直俺の見解で言えば、慎重すぎる気がするぞ」
広場の一画を指してジンタロウが言うので、そちらに顔を向ける。
そこには、未だ大量に『肉』が残っていた。
亜人が合流し、人数も単純に倍になったので、さすがに消化するかと思いきや、それを超える量があったらしい。今は俺の氷結魔法で氷の壁を作り、内包する形で保存しているが、この量を今後も獲るとなると、ただの冷蔵庫程度では足りない。
「――お前ら、どんだけ獲ったんだよ」
「それについてはぐうの音も出ないな……」
ジンタロウが額に指をやるが、実際に狩りでテンション上がったのは魔人たちだろうから、彼を攻めるのも酷な気はする。
と、俺は返す言葉を作る。
「まあ、あんな量を一日で獲っておいても、まだ慎重すぎる、か?」
「そうだ」
断定が来た。
「お前がいない間、森の中や北の草原を見てまわった感じの所見だ。この森とて、規模としては大森林のそれだし、今後、活動範囲を森の外――北の草原を超えた緩衝地まで広げると考えれば、そこにはかなりの資源があるだろう、生物を含めてな」
「あー、俺もこの森全域を把握した訳ではないからなー」
「というかお前、森に居てもけっこう引き篭もってる事多いから現状だと俺の方がこの辺りの事は詳しいだろう」
言われるが、否定は出来ない。森にいても、フラウのヴィンセント・ゼロについてや、アルカナムの設計、オキュレイスの解析と改造など、最近になってやる事が多すぎて周辺の把握が出来ていないのだ。
(
「それについてはごめん。しばらくはフランケンに行く用事も無いし、ちょっと見回り増やすよ」
「いい、わかってるならな。
……それで、食の向上だったか。具体的にどうするんだ?」
「あー、うん。調味料の使用とか健康への配慮とか、色々追求したいものはあるけど、まずは『供給』の問題だよな」
これはそのまま、先程までの話題に繋がるものである。味だの何だの言っても、結局食べられないのでは話にすらならないからだ。そして、現状の課題というのは、その先の話であり、
「狩猟、漁業、採取。どれにおいても、今は余裕がある。だが、これを続けていける保障は無い……という事だろう?」
「そういうこと。ジンタロウの所見だともう少し甘く見ていいという事だけど、じゃあ、他はどうだ? 一応多角的な視点は欲しいから、この点に関して何か意見あるなら言ってくれ」
「あ、それでは以前
俺の問いかけに、手を挙げて答えたのがハーピーの一人、ハールズだ。
「正直申しまして、
「もうちょい緩和してもいい、と?」
「ええ……、この地は元々南方以外は険しい山々に囲まれておりますから、外敵の流入など無く、魔獣含めて動植物が育ちやすい環境ではあると思っていましたから。さすがに大きくバランスを崩すほど乱獲などしなければ、環境が壊れる事は無いと私は判断しますわ。
――あ、別にこれ、アサカなどに配慮した訳ではないですのよ?」
名前が出たアサカがきょとんとして、え、と言うが、数秒置いて、どういう意味か解ったらしく、
「ちょっとハーさん! まるでアサカが大食いみたいな感じで言ってない!?」
「事実では?」
「否、アサカは普通だって!」
周囲、皆が半目でアサカを見てるので、そういうことだろう。
「まあ、アサカが大食いキャラかどうかはさておき、他、無いか?
……無さそうだなぁ。うーん、じゃあ、もうちょい狩猟関係緩くするかー」
言葉に、魔人たちが喜びの表情を浮かべる。
(飯の問題は幸福度に直結するしなー)
やはりこの辺りは最優先で解決するべきだろう。
だから、俺としての提案を言う。
「じゃあ、緩くした上でプラスいこうか」
「プラス?」
「ああ。今、採取面では畑作ったりしてる訳だけど、じゃあ動物を飼うのはどうかって話だ」
「まさか……畜産をやろうってのか?」
ジンタロウが眉をひそめる。
「大当たり。今回、フランケン周辺で飼われてる種を調べてきたんだけどさ。北の草原に同じやつがいるっぽいんだよな」
今回のフランケン遠征の目的の一つがそれだった。
家畜それ自体を購入するという方法は、家畜の値段もそうだが、輸送手段や周囲の目などが大きな問題で実現はしないとは思っていた。
「そうは言うが、簡単に出来るものじゃないぞ」
「わかっているよ。俺だって、経験無いし。魔人たちも……無さそうだな」
訊いても首を傾げる者が多い。とりあえずの答えとして、先程応対したハールズが苦笑しながら、
「増やす、という考えは魔物としてはあまり無いですから。目の前にいたらぱくりといくのが普通ですわ」
「そうなるわな……。
と、なると、俺が当てにしたいのが、ジョルトたちだ」
「む、私たちか?」
今まで話が魔人側中心で行われていたため、いきなりのシフトにジョルトが狼狽した。
「アルドスは、最近はともかく、昔は家畜とかも普通にいただろ?」
「確かに生業としていた者も多かったし、私も若い頃は親類の手伝いなどで経験はあるゆえ、指導は出来なくも無いが……しかし、野生の種を家畜化する事から既に容易ではないぞ」
「うん、それもわかってる。あくまで、将来の俺たちの選択肢として欲しいだけだから、今すぐに出来るようにしろとは言わないよ。既存の規制を緩和するだけでも食糧事情は余裕だろうし」
「ううむ……子どもたちがここで世話になるというならば、それなりの働きもせねばなるまい。やれるだけやってみよう」
「頼む。と、こんな感じで食糧供給を緩くしつつ、質も高めようって事で、ゼルの指導で調理できるやつも増やしていくからよろしくなー」
と、俺は言いながら、《
――食関係――
・狩猟→自主規制を緩く。ただし、状況を見ながら。
・採取→今までどおり自生しているものを中心に。ただし、畑が上手く機能するなら徐々に自給自足へ。
・漁業→とりあえずは今までどおり。
・他対処→畜産を始める。調味料を駆使して質を高める。
「調味料の調達とか、課題は色々あるけどとりあえずの『食』の方向性はこんな感じで」
「了解した。俺もそろそろ素材を生かした味には飽きてきたところだったからな」
ジンタロウが肩をすくめて言った。
「まー、料理系はゼルの料理でとりあえず味の幅を知ってから、みんなで追求って感じで。
次、『住』な」
話題が次に移っていく。
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