第36話 午後の鍛錬場にてⅡ

 ジンタロウは額に手を当て、どこからツッコミをいれようか、迷った。


(どこからそんなもの持って来た、何でそんなもの持ってる……。否、これだと一緒か……)


 などと思っている内に、新たな声がさらに追加される。


「―――あれ、フラウ。それ何ー?」


 見れば、フラウの横、狼の耳を持った少女がスナイパーライフルに興味を持っていた。


 ガルグードの妹、ミリアだ。彼女たちはどうやら以前から友人関係だったらしく、別の種族の割に一緒にいるのをよく見る。


 少し前に、魔物は別の種族でも友人関係とかは築けるのか、と聞いてみれば、あたしたちだけだと思います、などと返ってきたので、この光景はかなり珍しいのだろう。


「……あー、俺も説明が欲しいな。そんなもの、何処から持ってきた?」


 十中八九、サキトあいつが絡んでいるのは間違いないだろうが、それにしたって魔物の少女がスナイパーライフルを持っている光景はどう見ても異様だ。


「あ、はい! これはサキト様からもらったんです。えーと、シサクガタマドーライフル、ヴィンセント・ゼロ、と言ってましたが、ちょっとサキト様が言う言葉はあたしには難しかったので、これから勉強します!」


「試作型魔導ライフル、ヴィンセント・ゼロ……かね。まあ、なんというか……」


 毎度の事ながら予想の斜め上を行く男だ。十日とちょっとの関係なのに、何回驚かされるのだろうか。


「他のやつらは基本的に近接武装だ。フラウだけ、それを持たされたのには、意味があるんだろう?」


 本人に問うと、頷きが返される。


「サキト様が言うには、あたしの《見破る者》が《暴く者》と《見通す眼》っていうのに分裂進化したから、近接より遠距離武装の方がいいだろうって」


「《見破る者》っていうのは、確か……隠れているものを見つけるスキルだったよな? それが分裂進化してスナイパーライフルを持たされたって事は……《暴く者》が《見破る者》の純粋な進化スキルで、《見通す眼》は副次的な物……要は眼が良いってところか」


「はい、サキト様もそう言ってました」


「やはりか……」


(というか、分裂進化って……。スキルが進化するなんて聞いた事も無いし、分かれたとしてもスキルが二つあるなんて異常だぞ……)


 思うが、口には出さない。そもそも魔物がスキルを持っている時点で、という話だ。


「まあ、その辺りはだいたいわかった。それで、使い方とかはわかってるのか? さすがに火器方面は俺はさっぱりだぞ」


 日本人時代、軍隊などに入っていれば知識もあっただろうが、一般庶民だったし、興味もさほど無かったので、調べた事もない。そして、前世である勇者時代も剣や弓などが一般的で、火器系統は無かった。


「あ、そこは大丈夫です! サキト様にきっちり仕込まれてきましたから!」


「言い方よ……」


 気になることはあるが、そこは追求しない。


 とは言え、別の件で言っておく事はある。


「こう言ってはなんだけど、俺の予想だとその武器の威力は仲間内の鍛錬には向かないと思うんだが……」


 スナイパーライフルの威力など予想でしか分からないが、訓練において、人に向かって撃つものではない。


 だが、フラウは、


「あっ、そのことでサキト様から預かったものが……」


 言って、フラウが紙を手渡してきた。手紙だ。しかもこれ、魔力を感じる。どうやら普通の紙ではない。詳細は解らないが、魔力を感じるのだ。


「……まあ、開いてみるか」


 言って、受け取った手紙を開いてみれば、


「……白紙……?」


 その瞬間だ。手紙が淡く光り、紙の上、何かが投影される。


 それは、サキトだった。ただし、2Dキャラクターにデフォルメされている。そして、そのキャラクターが喋り出した。


『ジンタロウへ。

 その試作型魔導ブラストライフル『ヴィンセント・ゼロ』は、俺の魔法機工技術と帝国から盗ん……参考にした魔導技術を取り入れて、前から作ってみたかった魔弾を撃ち出す武装だ。使い方とかはフラウにある程度叩き込んだから、今日から訓練メニューにフラウの狙撃を避けるか防ぐコースも追加するといいぞー。

 あぁ、そのヴィンセント・ゼロは非殺傷モードもあるから、心配するな。ちょっと痛いだけだから』


「抜け道を潰してきやがるあのクソ野郎!」


 ジンタロウは地団駄を踏んで憤慨する。サキトには、こっちの仕事を増やすなと戻ってきたら言ってやる事に決めた。というか先程まで面と向かっていたんだからその時に言えという話だ。


 そして、手紙は既に光を失いただの白紙へと戻っている。


「まあまあ。いいじゃないですか。いろんな事に対応できるようになることはいいことですし」


 フラウが言った言葉、一応は正論ゆえに反論はできない。


「あ、そういえば……。あたしはあたしで、ジンタロウさんに弾を当てられるように練習すればいいよ、って言われたんでした!」


 やはり帰って来たら文句の一つも言わなければ気が済まない。フラウの言葉から、ジンタロウは心の中でそう決めた。


「……とりあえずわかった。ただ、フラウとヴィンセント・ゼロは本格的に訓練に入れる前に俺が見てみるから、他のやつの今日の訓練は基本、今まで教えた事の自主練習にする。皆を集めてくれ。

 フラウはこの後、俺と模擬戦だ。いいな?」


「了解だ」


「はい!」


 頷くガルグードとフラウたちを見て、ジンタロウはこれからの計画を頭の中で立てていくのであった。

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