第34話 魔物の配下Ⅱ

 そこにいたのは、数刻前のフラウではなかった。


「おー、『成長』したんだなフラウ。良かったじゃないか」


 サラマンダーたちに生じた肉体の変化。それがフラウにも生じたのである。


「はい! ありがとうございます!」


 そう言ったフラウは、以前よりも人間の姿に近かった。


 肌は依然青白く、鱗も身体に見られるが、元々整った顔立ちだったのが、今となっては言ってしまえば美少女の域に足を突っ込んでいる。対し、舌や尻尾は少し縮小したように感じる。


「うーん、ゼルが眷属化したら、やっぱりそういう風に変化するよなぁ、『親』に似るわけだから」


「その口ぶり、ゼルシアがフラウを眷族にしたのか?」

 

 ジンタロウの問いにゼルシアが頷いた。


がそのように申し出てきましたので……。サキト様の許可が下りました故、今の今まで眷属化の儀式を行っていたのです」


 お、とジンタロウが気付く。ゼルシアの、フラウの呼び方が変わっている。


 おそらく、他の魔物たちを呼ぶ時も変わっているはずだ。


(未だ名前も知らないやつのほうが多いんだけど)


「というか、ゼルシア―――天使って魔物を眷属化できたのか?」


 天使は魔物とは両極端な存在のイメージがあるのだろう。実際、その通りではあるのだが。


「天使はできないけど……ゼルは元天使であって、今は厳密には違う存在だしな……言うなれば魔天使?

 前にゼルを縛っていたオーディアのしがらみを破壊した時、ついでに俺の能力を何個か付与したから、眷属化は今まででもやろうと思えばできたんだけど、実践させたのは今回が初なんだよ。上手くいってよかった」


「……聞けば聞くほど、お前らの存在がとんでもなのはよくわかった」


 遠くを見始めたジンタロウは置いておくとして、改めてフラウに問いたいことがある。


「しかし……フラウは良かったのか? リザードマンだったら、ミドの方が相性は良かったと思うけど」


 トカゲとドラゴン、爬虫類同士―――などという気はなく、元魔物と元天使。魔物を眷属とするなら、どちらがいいかは明白だ。


「はい。家族にも言われて、一日ちゃんと考えたんです。ニンゲンに近づく、っていうのはあたしとしても微妙な気持ちですけど……でも、やっぱりあたしはゼルシアお姉様の眷族になりたいって、そう思ったので!」


 お姉様て……と、俺が思う横、現実に復帰したジンタロウが笑う。


「いいじゃないか。本人がそう希望するならよ。現状、似てはいない姉妹だが、魔物たちはもっと『成長』するんだろ?」


「ああ、外見もそうだし、内面的なものも順次強化されるはずだ。フラウは……さすがにその辺りはまだか」


 《鑑定博士》で見るフラウのデータ。身体の各部位が変異、成長しているが、彼女のスキルである《見破る者》は特に変化していない。既にスキルが開花している分、初動は他の魔物たちよりも緩いのだろう。


「急ぐ事も無いでしょう。現状、気をつけなければいけないのは西の帝国の存在ですが、それはサキト様や私単体でも対処可能です」


「おいおい、俺も忘れてもらっちゃ困るぜ」


「忘れてないって。てか、ジンタロウ。お前、家の方はどうするんだよ。小屋のままで良いのか?」


 ここから、ジンタロウの小屋が見える。それは、俺とゼルシアが住むツリーハウスのものよりもだいぶ小さく、四、五メートル四方ぐらい。一軒家の一部屋ぐらいしかない。


「あー、そうだな。とりあえず今はあれでいい。こちとら独り身だからな。

 機工人形だって、他のやつらに貸し出す方にまわしたいだろ、今は」


「まあ、そうだけど」


「なら、そうしておけ。それと、眷属化して魔物たちが浮き足立たないよう、気をつけておけよ」


「言われるまでもない」


 言って、ふと思った事がある。


「ところで、このごみどうするんだよ」


 それは手に持つ串、と魚の骨。


 それらを持ってきたジンタロウに訊けば、


「……なんか考えといてくれ」


 これも俺の仕事なのだろう。


(灰にして肥料とかにできたっけ……)


 やるべき仕事はこれから増えていくのだった。



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