第31話 眷属化Ⅰ

「―――……ん、まぶし……」


 雲の切れ間から、日差しが顔に当たるその変化で俺は眼を覚ました。


 太陽は既に直上、つまりは昼を指し示している。何故こんな時間に起きたといえば、昨日と同じ、朝早くまで起きていたからだ。身体を魔力で活性させる事で、睡眠の要らない状態にする事もできるのだが、人間らしさは残したいということで俺は睡眠は大事にしている。


 ところで、今の状況。俺は拠点であるツリーハウスの中には、居なかった。今、俺が寝ているのもベッドではない。木と木の間にかけられた大型のハンモックに俺は寝ていた。


 もちろん、一人ではなく、視線を降ろしてみれば、銀の髪が目に映る。ゼルシアだ。俺とゼルシアは向き合ってお互いを抱くように寝ていた。いつもどおりである。


 そして、視線を動かした先では、既に動きがあった。


 魔物たちだ。


 昨夜、俺の部下見習いとなった彼らに、俺はひとまずの休養と、それからそれぞれの住居の建築を命じた。また、住居製作には向かないような個体たちは住居製作の代わりに、別の重要任務につかせている。二つのグループにして、湖での漁と森の中で果実などを採る、食料調達の任につかせているのだ。


(家作りは一人ひとりに機工人形一体を貸してやってるし、漁の方はジンタロウが引率するって言ってたから大丈夫だよな……)


 この方法で問題があるとすれば、食料調達組の住居製作が進まない事だ。住居製作組と食料調達組でペアだったり、家族だったりする者たちは良いのだが、そうでない場合、野宿暮らしが続いて不満が出る。


(その辺りはこっちで機工人形多めに貸すとか上手く調整しないとなぁ……)


 自分たちの分やこっちから協力要請したジンタロウの分は多少確保するが、残りは全放出してもよい。あとは『家』自体が要らない、という者たちには個別に好みの環境に会った場所を提供するのも一つの手だろう。


「―――西の峡谷とか、すぐそこにある地下洞窟の中も調べたいし、やらないといけないことが増えていくなぁ……」


 充実していっている、と言えばそうなのだが、前に思ったとおり、どんどん自分の計画からずれていっている気がする。


 その辺り、もっと振り切った方がよいだろうか……、とそう思ったときだ。


「……ん」


 目の前、ゼルシアから声が漏れる。見てみれば、眠りから目覚めたようだ。


「おはようゼル」


「おはよう、ございます……サキト様」


 顔を上げてきたゼルシアと至近距離の挨拶を交わす。そのまま俺と同じように周囲を確認したゼルシアは、


「……皆、既に活動を開始しているようですね」


「ああ、というかちゃんと寝てないんだろうあいつら。これだとまるで俺とゼルが寝坊したみたいじゃないか」


「ふふ、そうですね。それでは私たちも活動を開始しましょう」


 ゼルシアが言って、上体を起こした時だ。


『―――目覚めたか、王、天姫よ』


 声が近づいてきた。


 ミドガルズオルムが小竜状態で飛んできた。その後ろには、数メートル規模の竜が三体従っている。


「ミド……と、なんだっけ、三体の名前」


『名はまだ無い。故に、王に授けてもらうと思ってな』


「あー、なるほどなー」


 名を持つのと持たないのでは、その意味が大きく変わってくる。特に魔物は、眷属化している状態だと、『親』が『子』に名前をつけるという行為だけでも、その力はさらに強くなるからだ。


 この場合、三体の竜の『親』はミドガルズオルムなのだが、そのミドガルズオルムの『親』にあたる存在が俺なので、実質一緒である。


 さて、どのような名前をつけようか。ここは手っ取り早く、知っている竜種の名をそのまま流用させてもらうのがいいだろう。


「その赤いのが、サラマンダー。緑色はリンドヴルム。黒いのは……ジルニトラだ」


 捻りも無い感じだが、シンプルでいいと思う。


 と、直後、三体の竜に変化が現れた。角や翼など、それぞれの身体的な特徴が成長し、さらに個性を得たのだ。


『……ふむ、進化の第一段階に入ったようだな。王と魔力的に繋がっただけで瞬間的に成長する辺り、我の見込みは間違ってなかったようだ』


「そのようですね。通常であれば、多少なりの時間を経て、変化していくものですから」


「ミドが眷属化した段階で下準備状態には入ってたんだろうさ。そこに俺がブーストかけただけで」


 ゼルシアと共にハンモックから出た俺は、伸びをしながら言った。


「ふぁぁ……これからみんなを眷属化していかないといけないし……しんどいだろうなぁ……」


 眷属化はその個体にもよるが、一体相手でもそこそこの魔力を消費する。それが約五十体だ。若干憂鬱になる。


「―――あ、良い事考えた」


 俺はゆっくりと視線をミドガルズオルムに移しながら言った。


 対し、視線を受けたミドガルズオルムは、低く唸った。


『……我は悪い予感しかしないのだが』

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