第21話 ▼魔人パーティーに失敗勇者が加わった。

「協力者……だと?」


「そ。あんた、この世界の事も俺たちよりは詳しそうだし。

 俺とゼル、あとは……まあちょっといるけど、それだけじゃこの世界がどんな世界なのか把握するのにもどれだけかかるかわからないからな。協力してくれる人は沢山いる方が楽だ」


 距離的な問題もそうだが、この世界の情勢や常識を知る者が内側にいるとずいぶんやりやすいものだ。


「もちろん強制はしない、それに仲間、なんてのも言わない。そういうのはこういう感じでなるものじゃないと俺は思ってるし。ただ、お互いの利益がある協力者。そこからスタートしないか、っていう提案だ」


 言葉と共に、俺はジンタロウを拘束していた鎖を解除した。


「……いいのか? また襲うかもしれないんだぞ」


「その時は真っ二つにするから止めておいた方がいい」


 俺とジンタロウは互いに視線を合わせ、睨み合う。


 数秒間、焚き火の音だけがする時間が流れるが、先に折れたのはジンタロウの方だった。


「っはー、止めだ止め。男と見つめあうなんざ、俺の趣味じゃない」


「それ、そのままそっくり返す。

 ―――で、どうするんだ?」


 問いに、ジンタロウはふんと鼻を鳴らす。


「いいだろう、その話に乗ってやる。どうせ、行く宛も無かったんだ。オーディアに反抗している手前、勇者だらけのオルディニアに身を寄せることもできないからな」


 ジンタロウが立ち上がった。


「ひとまずの休戦だ。ただし、お前たちから離れた方がいいと思ったら俺は離反するぞ」


「構わないさ。まあ、よろしく」


「ああ」


 互いに手を出し、握手する。


「一件落着なのでございましょうか」


「とりあえずは、な。天使の、ゼルシアだったか? よろしく頼む」


「よろしくお願いいたします、ジンタロウ様。

 ―――ところで、ジンタロウ様の盾はいかがなさいますか? そのまま使うと完全に破損すると思うのですが」


 ゼルシアが指摘する。


 そうだ。ジンタロウの盾であるグランアイギスはゼルシアの天槍グングニアル・ヴァナルガングの一突きを受け、ひびが入った。


「は! そういえば! ……どうするんだこれ……、鍛冶できる知り合いなんていないぞ」


 そもそも女神からもらった武具をどうこうできる鍛冶師がその辺りにいるとは思えないのだが。


 仕方が無い、ここは俺が一肌脱ごうではないか。


「あー、仕方が無かったとは言え、こっちの攻撃で壊れたんだ。俺が直してやるよ」


「お前、鍛冶師なのか?」


「いや、ただの魔人だよ? スキルで直してやるって言ってるのさ」


 言って、俺はグランアイギスに手をかざした。この程度ならば、修理素材が無くとも、そこまで魔力消費せずに完遂できる。


 スキル:《工房にてクラフター》の応用だ。ただ直す、というよりは作り直すと言った方がいいかもしれない。


 数分もせずにグランアイギスが元通りになる。


「―――ほい、これで完了だ。一応確認してくれ」


「……ああ、問題は無いみたいだ。すごいな、それがお前のスキルか」


 盾の状態を確認したジンタロウが関心を示す。


「ん? あぁ、まー……スキルの一つと言うか、メインではないけどよく使うやつだな」


 言葉に、ジンタロウがへえ、と言ってから数秒固まる。


「―――は? 否、待て待て! スキルの一つだと? じゃあ、何か。お前はスキルが二つあるのか!?」


「そういう反応は、やっぱ二つ以上あるのってそんなに居ないんだな。俺、他の勇者に会った事ってほぼないからさー」


 あるのは、魔王時代に相対した勇者二人と、目の前のジンタロウぐらいだ。


「そんなやつ今まで見た事が無いぞ。否、俺も他の勇者に出会った事は無いが」


 ジンタロウが盾を地面において、切り株に座った。


「……というかだ、お前ら本当に何者だ? 元勇者って言うのはまだしも、天使連れっていう点だけでも初めて。初めてだらけだよ、お前らは」


「あー、やっぱり説明必要だよなぁ、一応こっちから協力者として誘ったんだし。少し長くなるけど、いいか?」


 こちらの身の上話をするには少々俺の経歴が長い。


「時間はあるんだ。協力するやつがどういうやつなのかは俺もきちんと知っておきたい」


 ならば、と俺は今までのことを思い返しながら語った。


 結果、ジンタロウが聞いた話を事実として処理するのに頭を抱えるという事態が発生したが、そこまでは面倒見きれないので、放置した。



●●●



「勇者で魔王で二回繰り返して今は魔人……? スキルを作れるスキルを持ってて天使が嫁……」


「いい加減処理しろよ、ジンタロー」


「うるさい、規格外野郎が……」


 言われるが、肩をすくめるしかない。


 こちらとしては今までの経緯を説明しただけなのだ。


「……はあ。信じられないが、目の前に居るから信じるしかないか」


「その意気だ。前に向かって進もうぜ?」


 人間、後ろばかり見ていたら良くない。


「前を向く、ねえ。言うだけなら簡単だろうが……」


 ふと、俺の言葉に、ジンタロウが俯いてつぶやいた。


(ジンタロウがオーディアを追う……、なにかしらの訳がありそうだな)


 気にはなるが、個人的な問題だと、先程本人に拒絶されたばかりだ。せっかく得た協力者とぎくしゃくするのは、俺も嫌なので、深追いはしない。


 そんなことを考えていると、いつの間にか顔を上げていたジンタロウが問いを投げてきた。


「ところで、前を向くなんて大層な事を言うが、これからどうするのかは決まってるのか?」


「ひとまずはこの世界がどういう世界なのか、その確認だ。

 オーディアが何らかのアクションを起こさない限り、この世界で生きていくことになるわけだけど、あの女神がわざわざ送った世界だ、普通じゃないのは存在してる勇者と魔王の数だけでもわかる」


「そして、炎獄という言葉。戦火が広がっているから、と捉えることもできますが、サキト様は違う予想も立てられているようですね」


「そこは一連の話が、どこまで北欧神話と関係してるかによるけどなー」


「どういうことだ……?」


 反応からして、ジンタロウは北欧神話には詳しくは無いようだ。


(俺もそこまで詳しいわけじゃないけど)


「その辺りは解釈にもよるけど、北欧神話には神々の宿敵が存在するんだよ。

 ―――炎の巨人、魔神とも言われるスルトってやつがさ」


 思い違いなら良い。だがあのオーディアが、数多の世界を勇者や魔王で操っていた女神が、炎獄などという言葉を使ったのだ。


「スルトは伝承でも神々を簡単に屠るような存在だ。そんなのが居る世界だってなら、あまり悠長なことは言ってられないだろ」


 俺の力でも対処できるかわからない。場合によっては、俺も更なる『進化』が必要だ。


「どれも憶測の域を出ない話だ。だけど、地盤を固めておくに越したことは無い」


「地盤を固めるねえ……。だったら、どこか、町に身を寄せても良いんじゃないのか、こんな森の中じゃなく」


 尤もな意見だ。だが、俺とゼルシアの場合はそう簡単な話でもない。


「ゼルの翼はどうしても人から見たら異様に映るし、人間社会の下だといろいろ制限も多いだろ。魔族社会の方もくわしいことはまだわからないけど、魔王が争ってる時点で碌なことにはなってないだろうしな」


「ああ、まあ一般人から見たらどれだけ美人だろうと魔物に見えるわなぁ……」


 ジンタロウがゼルシアを眺めて言った。


「だから、ここが丁度いいんだよ。人間と魔物が手を出さない場所。半分半分の俺とゼルには適地だろ?」


「……なるほどな。色々言いたい事もあるが、筋も通っている」


「別にあんたは人間の町に居てもいいんだぞ? 俺だってたまにはフランケンに行くつもりだし」


 物資の補給、新鮮な情報は欲しいからな、と付け加える。


「……否。俺もここに住もう。お前たちがいいのならばな」


「……まじか? 森だぞ? 健康で文化的な最低限度の生活は保障できないぞ?」


「日本人にしか伝わらない言い回しは止めろ」


 ツッコまれ、確かに、と反省する。


「というか、保障できないってお前ら、野宿してるのか?」


「いいや? 上見てみ?」


 既にジンタロウに対しての幻影魔法は解除してある。


「うわ、小屋がある。あそこに住んでるのか……」


「まあな」


「じゃあ問題ないだろ」


「問題ないのか、野宿で」


「え、いやいや野宿にはならないだろ、小屋があるんだし」


「え、泊めないけど?」


「え?」


「……」


 俺とジンタロウの間で沈黙が流れた。


「いやいや、泊めろよ!? 協力要請しておいて、外に寝させるとかまじか!?」


「ああ!? 狭いんだよ、あの拠点! だいたい、誰かが居たらゼルと集中できないだろ!」


「何に集中するんだよ!?」





 こうして。


 夜が深まっていくが、反対に、森の一画は騒がしさが増したのだった。

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