第15話 魔人は採取クエストにスキルとかをフル活用する


 入り口に向かうとモンドリオが話しかけてきた。


「どうやら登録は済んだようですな」


「はい、おかげさまで。

 ひとまず、俺たちはこれから簡単なクエストで今日の宿代でも稼ごうかと思います。数日はこの町に滞在しようかと思っているので」


 森の拠点に戻ることも考えたが、せっかくここまで来たのだ。多少の無理くらいは慣れている。


「なんと! 宿ぐらい、私めの方で手配いたしますぞ」


「すごくありがたいんですが、そこまでは頼れませんよ。自分たちもいい大人ですから、自分たちのことは自分たちでどうにかします」


 実際、大変ありがたいのだが、自分たちにも矜持というものはある。これくらいの事で他人を頼るつもりは毛頭ない。


「そうでございますか……」


 ただ、せっかくの善意だ。今、知りたい事はある。


「モンドリオさんからみて、フランケンでお勧めの宿ってありますか? できれば、二人一緒に泊まれる部屋があるところで」


 ギルドの宿を使った方が金銭面ではいいのだろうが、その分、それにつられて冒険者も多数居る。


 加えて、この辺り、町のメインストリートに当たる場所に近いようで、かなり人が多い。昼に訪れるのはいいだろうが、夜は騒がしくて困るだろう。


「ふむ。それでしたら、良い所があります。大通りからは外れてしまうのですが、穴場的な宿でございます。フランケンの地図はお持ちで?」


「いえ、持ってないです。地図も後で手に入れようかなとは思ってるんですけど」


 地図に関してはフランケンどころか、ヴォルスンドや周辺諸国のまで手に入れたいところだ。


(地図から見えてくることも多いからな……)


「では、私の商品からお譲りしましょう」


「いや、悪いですよ……」


「いやいや、地図無しでは説明もままなりません。

 ―――では、そこまで仰るのであれば、ここまでが先日助けていただいたお礼ということではいかがでしょうか?」


 ここから先は、商人とお客様という関係でお付き合い下されば幸いです、とモンドリオが続ける。


 それならば、俺も納得だ。


「では、こちらの地図をご覧ください。今、我々がいるのがこの地点でございます。くだんの宿はここ。名は『フルム』といいます」


「思ったより近いですね。ちなみに一泊の料金とかは?」


 未だ、ヴォルスンドにおける物価の詳しいところは知らないが、そこは商店にあるものなど見比べれば、大概は察しがつく。


「一泊朝食付きで、お一人様ヴォル銅貨十枚となっていたはずでございます」


(朝食付きは良いな……)


 俺とゼルシア二人なので、ひとまず銅貨二十枚を稼げば今日を宿で過ごすことが出来る。


「目指すは余裕を見てヴォル銅貨三十枚ぐらい。ゼルもそれでいいか?」


「はい。ギリギリよりはいいかと判断します」


 そうとなれば、後は行動するのみ。今は昼過ぎだが、もたもたしていると夕方になってしまう。


「それじゃあ、クエストボードとやらを見に行こうか。モンドリオさんも、ここまでありがとうございました」


 俺はモンドリオの方に向き直り、軽く一礼した。


「がんばってくださいませ。もし、困ったことや相談事がありましたらお話を伺いますので」


「ええ、お願いします」


 そして、俺たちはモンドリオと別れた。



●●●



 クエストボードには様々なクエスト内容が書かれた板が掲げられていた。採取系から討伐、護衛などあるが、


「―――Fランクが受けられる採取系で、単体で銅貨二十枚を超えるようなものは無いな……」


 どれも銅貨一桁ばかり、よくて十枚ぐらいのものしかない。

 

 ちなみにちらりとEランクで受けられる採取系クエストをみてみると、Fランク報酬の約二倍近くある。魔物と接触する可能性があるというだけで相場は跳ね上がるようだ。


「対象が採れるエリアが近いクエスト二つか三つを同時に受注する、という方法が一番手っ取り早いのではないでしょうか?」


「そうだなー……となると、これと……これ。

 フランケン北部の大河近くに群生している、料理に使うハーブの採集。あとはこれも大河近く、薬草を採ってこいっていうもの。

 報酬は銅貨七枚と八枚だけど、後者は最低量で八枚って事は多ければ増えるって事だろうなー」


「この世界の薬草類の知識もまだ不明確ではありますが、サキト様の《鑑定博士》があれば、間違ったものを納品する、ということもないですね」


「……だな。どんどん採ってけば、宿代にプラスして良い晩飯も食える。早速、受注するか」


 対象のクエスト内容板を取って、受付嬢のところに持って行き、ギルドカードと一緒に手渡した。


「あら、早速クエストですか?」


「ええまあ。今日の宿代を確保しないといけないですから」


 若干崩れていたキャラがちゃんと戻っている受付嬢は、手渡したものを見て頷いた。


「うん、最初だったらこれくらいが丁度いいですね。ただし、二つ同時ということで、先に注意しておきますが、受注したものを取り下げたり、達成できなかった場合、クエストを依頼された方にご迷惑がかかり、補償金が必要になります。それは基本的に冒険者さんから徴収されることになるので、気をつけてください」


「了解しました」


 受付嬢からギルドカードをそれぞれ返してもらう。加えて、対象のハーブと薬草の絵が描かれた紙をもらう。これを頼りに探せ、とそういうことだ。


「それじゃあ、行くか。場所は―――北門を抜ければ近いな」


 モンドリオからもらった地図が早速役に立った。


 ギルド支部から出て、メインストリートを北上する。


 三十分弱で北門に着いた俺たちは、ギルドカードを提示し、今度は堂々と町の外に出た。


 フランケンの北部にはやはり草原が広がっていた。が、遠くに大河が見える。


「町の外だし、飛ぶのはさすがにできないけど、時間短縮のために走るか」


「かしこまりました」


 俺とゼルシアは魔力を脚部に流して強化する。


 そして、大地を蹴った瞬間、高速の移動が始まる。走る、というよりは跳ぶと言った方が正しいその移動方法により、俺とゼルシアは徒歩の数倍の速度で大河のほとりにたどり着く。


「ん、この速度であれば、夕方前には帰還できそうですね。あとはどれだけ納品物を探し出せるか、ですが」


 大河ほとりに群生している、としか書かれていないため、歩き回ってその都度、絵で判別して探す必要がある。


 


「ゼル、周囲に人間の反応は?」


「ありません。周囲三キロ圏内は無人です」


 即答が返ってきた。おそらく、常に感知はかけているのだろう。


「それじゃあ、まあ……


 言って、俺は指を鳴らした。


 出てくるは、やはり鋼鉄の人形たち。


 その数は、少し抑えて四十体。


 俺はそれを、十体と三十体に分ける。


「十体チームはハーブを探して、採取しろ。多い方は薬草だ」


 どんなものを採って来ればいいかは俺の脳内イメージが、機工人形全体に共有されているため、見当違いの物を持ってくることは無い。


「採取したら俺のところに持ってくるんだ」


 似通ったものがあって、仮に機工人形が間違ったとしても、あとは俺が《鑑定博士》で真贋を確かめれば済む話だ。


「ゼルは周囲に感知をかけ続けて、人がいないか確認してくれ。機工人形とかち合って魔物扱いされても面倒だからな」


「承りました」


「よーし。それじゃあ仕事開始!」


 四十体の機工人形を使った、大規模採取クエスト(Fランク)が始まった。

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