第3話 新世界へ
「―――……!!!」
俺は暗転していた視界が光を得たのを知覚した。
一瞬の意識の断絶があったようだ。
すぐさま状況を確認する。
呼吸はできる。が、息苦しい。
浮遊している特有の感覚と、身体に当たる風の勢いから―――――俺は
どうやら、異世界に飛ばされた上に出口は空だったようだ。
(不親切な異世界転移だなー)
つい先程までの事を考えると当たり前か。
そして視界は、上が地上のようで、下には青の色が広がっている。その色もかなり深く、相当の高度だ。
「……っと」
俺は体勢を立て直し、状況確認を進める。
右手にはアルノード・ヴァナルガングが収まっている。
己の状況は転移前と変わらず、だ。
ならば、次に確認することは決まっている。
「ゼル!」
「―――此処に」
名を呼ぶと、声がすぐ左から聞こえた。
「……良かった」
ゼルシアの存在は俺の魂に紐付けしているため、仮に俺だけが転移しても強制的に呼び出せるはずではあるが、相手が女神だったことを考えると多少の心配があったのは事実だ。
失ったものは無い。あるとすれば、女神オーディアとの関係ぐらいだが、細かい事である。
「ゼル、掴まってろ」
彼女は、その背中の翼、または魔法によって自力で飛べるのだが、今は不確定要素が多すぎる。できるだけ一緒にいたい。
「承知しました―――」
「―――おっと」
ゼルシアが翼を収納し、こちらの正面から抱きついてきて、思わず声が漏れた。
思ったよりもがっしりこちらに掴まってきたので、驚いたのである。
ゼルシアはこういった場合、いつもは控えめに服の裾をつかんだり、よくて腕をつかむ程度なのだが、今はこちらに身体の感触が伝わるほど接着している。むにゅっとしたやつね。
(―――否、昔の俺ならともかく、今の俺はこんなんじゃどうもしませんよ? シチュエーションとか加わるとまた違う感じではあるけどさー!)
誰に言い訳しているんだろう俺、などと思うが、ゼルシアの様子にも心当たりはある。
オーディアだ。
ゼルシアたち天使にとって、オーディアは創造主、母のような存在だったはずだ。だが、俺についた結果、敵に回してしまった。それは彼女にとって、姉に当たる他の天使との関係も崩れてしまったことを意味する。不安でいっぱいだろう。
だから、宥める、というわけでもないが、安全のため左腕でゼルシアを抱く。
「さてと」
そろそろ減衰をかけなければ、地上に二人仲良く激突する。普通の存在ではない俺たちがそれで死ぬことは無いのだが、地上への影響を考えると良くない選択だ。
右手は依然アルノードで埋まっているが、魔法の詠唱には問題は無い。
無詠唱でも発動はするが、二人分、確実な発動のために詠唱を開始する。
「我が身を包みて空を駆けろ―――シエラリーベル!」
直後、落下速度が急激に落ち始め、最終的にはゆっくりとした降下に入った。
「下は……森か。ひとまず隠れるにはちょうど良いかな」
少なくとも街中に、翼が生えた美少女を抱きながら武器を持った男が降り立つよりはだいぶ良い。
「サキト様、あちらのほうに町が見えます」
と、俺の死角に町が見えたのだろう。ゼルシアが俺の後方に指を指した、のはいいのだが。その動きだと当然俺の方にさらに密着することになる。
(だーめだってゼルちゃん。意識外したくてもここまで来ると―――!?)
内心で割と絶叫感覚で叫ぶことで気を紛らわそうとしたのだが、
勇者やら魔王やらスキルやらで俺の身体は割と複雑状態なのだが、基本が人間のため条件反射とかはどうしても発生する。熱や痛みに対してはスキルで対処しているのだが、別にそのままでも良いかというところもあるのだ。
そして、ゼルシアは今、俺の身体に密着している。つまり、
「―――……サキト様。このような状況において、
「誰のせいだと思ってんのさー!?」
「?」
何を言っているのでしょうこの御方は、とでも言いたげな表情で首を傾げてくるが、そんなところも可愛いので今回は許そう。次回はわからん。
「こほん……とにかく、街の位置は把握したけど、そっちはとりあえず後だ。森に下りたら、周囲を警戒しつつ、拠点を作ろう。それでいいか?」
「異論はありません」
「よし」
とりあえずの方針が決まった。
口には出さないが、正直、不安でいっぱいなのは俺も同じだ。なにせ、女神に敵対したということは、世界に敵対したのと同じようなものだ。
だが負ける気はない。
今一度、気を引き締めて俺は森に降り立つのだった。
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