第7話「いざ決闘、そして……」
昼過ぎになって三人で昼食をとり、それから急いで屋敷に戻る。何かがあった様子はない。
メアリーとヘルメスは正面から、らのは裏から入り込み、ヘルメスに宛がわれた部屋でもう一度作戦を確認する。
「えーっと、それで、私は何をすればよろしいのですか?」
「メアリーはね、とりあえず俺と一緒にライとかいう奴を捕まえる。それから、みんなに話を聞いているとでも適当にでっちあげてここで話を聞く。そんで以て、そいつが鼠だと確信が持てれば、俺とらのが拷問ってな按配だな」
「拷問っていう言葉の響きがなんかアレですね……」
「まあ、いいや。さて、行くとしようか」
「はい」
部屋を出て、おそらく仕事をしているであろう場所を回り、その三箇所目で漸くライを見つけた。メアリがあの人です、と指を指すと、ヘルメスは黙ってうなずき、早歩きでライに近寄った。
「あの、すいません、ちょっといいですか?」
「ああ、はい、なんでしょう」
低く、かなり枯れた声でライは答えた。いたって普通、特に驚いた様子もない。
「いえね、今皆様にお話を聞いているんですよ。いろいろ、質問させていただいてもよろしいですかな?」
「ええ、構いませんよ。ここでですか?」
「それでは、私の部屋ですると致しましょう」
そうして三人はヘルメスに宛がわれた部屋に移動する。らのは既に見える箇所にはおらず、どうやらどこかに隠れているらしい。
メアリーは一応、紅茶を用意して二人の前に置いた。
「メアリーは、ちょっと外に出ていてくれないかい? いいと言ったら戻ってきてくれ」
「あ、はい。かしこまりました」
そうしてメアリーが外に出ると、中からはものすごい音が聞こえ始め、やがてその音はやんだ。そして扉が急に開いて、見たことの無い金髪の低身長の青年が飛び出してきた。その右手にはやや大きめな切り傷がある。するとその直後、かなりあせった顔をしたヘルメスが飛び出してきた。
「クソ、逃がした! 追うぞ!」
走り出したヘルメスをなんとか追いかけて、メアリーはクララの部屋にたどり着いた。
部屋の中を覗くと、黒い金属の塊、つまり拳銃をクララに突きつける金髪の青年の姿が。
「まて、早まるんじゃねぇ、まず引き金から指を離せ。別に銃を捨てろといっているわけじゃないんだ、さあ、引き金から指を」
ヘルメスは落ち着いて交渉を進める。
「うるせえ! 俺はてめぇのその俯瞰するような態度が気に食わねぇんだよ。偉そうな口利いてんじゃねぇ! 撃つぞ!」
見るとクララはわけもわからない様子で呆然とヘルメスの後ろに立つメアリーを見ていた。金髪の青年は腕でクララの首を絞めて固定したまま、右手でヘルメスに銃を向ける。
ヘルメスはそっと左手を腰あたり、ベルトのところに添えていた。どうやら、ヘルメスの銃はそこにあるらしい。そっとグリップを握る手がメアリーから見える。
すると、金髪の青年の後ろの屋根かららのが顔を出して、そーっと青年の後ろ髪に手を伸ばした。そして、後ろ髪をぐいっと握って、一気に後ろに倒す。
そうした一瞬の隙にヘルメスは銃口を倒れた金髪の青年の額に押し当てる。メアリーは急いでクララを確保、廊下へ出した。
「クララ様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫だけれど、あの人たちは何……?」
メアリーは一瞬考えてから、
「金髪の人は、敵さんです。ロギオス様と、天上から来た方は心強い助っ人の方です」
と適当に言った。
「ってことは、あの金髪がヘルメス?」
「あー、えーっと、はい」
「あんな顔してたかしらね」
これまたメアリーは一瞬考えてから、
「きっと変装していたんですよ!」
とその場で繕った。
金髪の青年は程なくして警察に捕まり連行されていった。これは余談だが、その金髪の青年のグループはこのあとすぐに金髪の青年がアジトの場所を吐いたことにより全員が逮捕されることとなった。
そうして夜、らのを正式に迎え入れて、ヘルメスとらのへの感謝の宴が始まったのだったが、なんとなくクララはずっと何かを考え込んでいて、ヘルメスはチラチラとクララのことを見ていた。なんだか、えらくビクビクしているように見える。
「いや、本当に、本日はうちのクララを助けていただいて、本当にありがとうございました。心より、感謝申し上げます」
エルマーがそう切り出した。メアリーは途中までは普通にメイドとしての仕事をしていたが、途中でサムギョプサル組に仕事を代わってもらい、メアリーは食事の席についた。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。よくあることですから……」
さりげなくヘルメスはそう言ったが、実際には全然無い。そもそも、まともに拳銃で戦うのもあまりない。過去に一度だけ、銃撃戦をしたことがあったが、そのときもせいぜい数発しか弾は使わなかった。
「それに、本山さん、クララを守るのを手伝ってくださったそうで……」
「ああ、いえいえ、大丈夫ですよ」
それから宴会は何事もなく進んだ。結局二人は屋敷に泊まっていくことになり、部屋がなくなったことでメアリーは猫部屋でミケと一緒に寝ることになった。
部屋に布団を敷いて寝転がると、ミケはそろりとメアリーの頭の横に円くなった。ぼーっとしているとなんとなく眠くなってきて、メアリーは深い眠りについた。
ふと目を開けると、ヘルメスが枕の横に立っていた。反射的にメアリーは枕の下に置いてあった短剣に手を伸ばしたが、
「お、起きたか。それから、別に取って食いやしないよ、そんなに警戒しなさんな。それでだ、俺はちょっとトンズラしようと思うんだよネ、それなんでお前には挨拶しておこうと思って。らのは普通帰るってたけど、俺は一応指名手配犯だしなァ」
そう呟くヘルメスの表情はよくわからなかった。
「記念にこれでも貰っておいてくれよ」
ヘルメスはスーツの内ポケットから一緒に行動していた間ずっとかけていた伊達眼鏡を取り出してキャビネットの上に置いた。そして、
「そんじゃさいなら」
と言って、メアリーの部屋の窓からそっと出て行った。
メアリーが朝起きて、キャビネットを見ると、そこにはしっかりと眼鏡が置かれていた。なんとなくそれを手にとったり、かけたりして遊んでいるとおもむろに部屋の扉が開かれて、
「メアリー! ロギオスとかいう探偵が消えたわ! 事件よこれは!」
と大声を出しながらクララが入ってきた。そしてそのコンマ5秒後くらいにクララはメアリーのかけた眼鏡を視認し、
「メアリー! その眼鏡! 何!? 夜に何かあったのね!? 身体は大丈夫!?」
「そういうのじゃありませんから! ロギオス様なら、昨日のよる、あまり騒がしいのは好きではない、と一足さきに帰られました。そのときに、この眼鏡をいただいたんです」
「ふーん? 怪しいわね。本当に何も無かったの? 帰る前にセッ」
「ないです! 何もありません!」
らのを含めて朝食を取って、それから買い物にもいかなくてはならないから、らのを送るのと一緒にメアリーは買い物に行くことにした。
特に意味もなく伊達眼鏡をかけてみて、そのままらのを送る。
「……ヘルメス様、別に朝まで居てもばれなかったと思うのですが……」
「顔を知られてませんもんね。まあ、怪盗っぽいことがしたかっただけなんじゃないですかね? たぶん、神社に居ますよ」
と、神社に到着すると、しっかりとヘルメスは居た。拝殿の縁側に寝転んで本を読んでいる。
二人が石畳を歩いて拝殿の近くまで行くと、漸く二人に気づいたヘルメスが顔を上げで一言。
「あれ、なんだ、かっこよく去ったつもりだったのに、また会っちゃうんじゃ意味ないじゃないか。そういえばその眼鏡、気に入ったのかい?」
「えっ?」
メアリーは顔を赤くして眼鏡を外した。
「き、昨日の夜はしっかりとお礼も言えなかったものですから……その……」
もじもじしながらそう言うメアリーに、らのが一言。
「あんまり、怪盗にってのも、考え物ですよ?」
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