第6話「くノ一! 本山らの!」

 ヘルメスに連れられてメアリーが入った神社には、本山らのという名のくノ一が居た。普段は普通に暮らしているらしいが、時々くノ一として行動したりもする。

「ヘルメスさん、そちらの方は?」

「ああ、この人はメアリー、奴らの狙ってるお嬢様んとこのメイドさん」

「メアリーです、よろしくおねがいします。手袋ですいません」

 握手を交わしたりして、一通り挨拶を終えて、ヘルメスはメアリーを連れてきた経緯をらのに話した。

「なるほど、それでせめてくないの使い方程度は、ということですか。なるほど、いいですよ。でも、くないって、武器じゃありませんよ?」

「えっっっ」

「これの使い方は、穴を掘ったりとか、あとは壁とか上るときに杭にしたりとかですね」

 そこでメアリーはらのの胸部に漸く気づく。そしてヘルメスを見ると、さりげなくチラチラとらのの胸部を盗み見ていた。盗むところを圧倒的に間違えている気もするが、これで正常っぽかったのでメアリーはスルーして、らのを観察する。

 ちなみに、街で一番かわいいのではとも噂されるメアリーの上を行くのがらのである。メアリーも国でタメを張ることは可能だが、勝算で言えばらのに分がある。

「そうだなァ、何かそれっぽい武器ってのはないのかい?」

「これなんか、どうです? あの、もう単純に短剣なんですけど」

「ああ、もうそれでいいか」

 その後メアリーは短剣の使い方を一通り教わり、そしてガーターリングに安全になるようにナイフを挟んでいたら、一日が終わっていた。


 ヘルメスもといロギオスは屋敷に泊まることになっているらしい。メアリーの部屋のはす向かいの部屋が宛がわれた。どうやら、メアリーを助手として使うのであらば、ということらしい。エルマーのちょっとした気遣いである。

「メアリー! お風呂入るわよ!」

 いつものようにクララが風呂に入ると叫んで、メアリーがすっ飛んでいって、それでいつものようにお風呂に入って通過儀礼のように胸を揉まれてなんてしているうちに夜も更け、情報整理と銘打った事実上の作戦会議が始まった。

 部屋には、何故からのが居る。

「それでは、第一回対策会議を行おうと思うんだけんどもな」

「らのさん、どこから入ってらっしゃったんですか? 協力してくれるならものすごく心強いのですが……」

「私も一応くノ一ですからね、こういうのは得意なのですよ」

 らのはふふん、と誇らしげに笑ってから、作戦会議をしましょう、と言った。

「それでなんだが、ここで何が一番問題なのか、というのが誰が鼠なのかってところだ」

「えっと、今メイドと執事は私を含めて六人居ます。私を除くと五人で、そのうちの二人はデキでます。そういう意味で。仮にこの二人をサムギョプサル組として、」

「うさぎや先生、そろそろ戻ってきてくれませんかね」

「そうですね。おそらくこの二人はないと思います。自分たちのそういうので急がしそうですし、それに、この二人は五年ほど前から勤めておりますから、時期的にも合わないかと」

「なるほどね。一番最近に入った奴は?」

「一番最近ですか、えーっと、ライという名前の人が」

「ライねぇ」

「らいというと私は病気の名前を思い浮かべてしまいますね……。はやく偏見が無くなればいいですね」

 らのがそう挟む。

「あれだ、たしか、どっかの国の言葉で嘘とか偽りとか、そんな感じの意味だったか」

「それでは、ライの可能性が高いでしょうか」

 メアリーは備え付けてあったメモ用紙を一枚切り取って、自分の万年筆を使い左手で「Lie」と綴った。

「そのまんま、嘘っていう意味の言葉ですね……」

 らのはその横にメアリーの万年筆を使って「嘘」と書いた。

「ちなみにそのライって奴はどういう感じなんだ?」

「ええと、背が少し低めで、猫背で、おじさんです。背が低いっていうのは、私よりも低くてたぶん百五十センチ台だと思います。あ、あと、右手に切り傷がありました」

 メアリーは一通りライの特徴を言い終えると、また紙に万年筆でまとめた。

「なるほど……聞けば聞くほど怪しいですね……」

「ああ。……おっと、もうこんな時間か」

 ヘルメスが壁にかけられたぜんまい式の振り子時計を見ながら言った。

「では、そろそろ解散にしますか。らのさん、表から出なくて大丈夫ですか?」

 メアリーがらのにそう問うと、

「ああ、お気になさらず」

とらのは言ってどこかへ消えてしまった。


 メアリーが部屋から出て、向かいの自分の部屋に戻ると、

「あらメアリー、何してたのかしら?」

と、ベッドに座ってずっと待機していたらしいクララに声をかけられた。

「えーっと、ちょっとへ……ロギオス様と世間話を……」

「ふーん? こんな夜遅くに? どーーーせその綺麗な顔でロギオスさんを落としてえっちぃことでもしていたんでしょう? さあ! 白状なさい! 怒らないから!」

「そんなことしてませんよ! ていうかなんでここにいるんですか!?」

「え、いや、部屋が向かいだとエッチなメアリーのことだしそういうことになるかなぁ、なんて思って」

「それはクララ様でしょう…………」

 メアリーは深くため息をついて、エプロンを外した。

「あら、そうかしら? 案外メアリーなんて頼まれたらすぐに脱ぎそうじゃないの」

「そんなことはありませんよ」

「そうかしらねぇ……」

 そう言ってクララはメアリーの部屋から出ていった。


 翌朝、寝間着からドレスに着替えて、エプロンをして廊下に出ると、普段ならまだまだ寝ているはずのクララが部屋の前に立っていた。

「……本当に昨晩は何もなかったようね」

「それを確認するためだけにそこで張っていたんですか?」

「そうよ。だって、幼いころから一緒に居たメアリーが全然知らない男にホイホイされるのって、なんか、嫌じゃない……?」

「はあ……」


 みんなで朝食を食べて、それから調査ということで街に出る。

「あ、そうそう、その格好だと俺がそういう性癖を持ってるみたいだから、エプロンだけ外してきてくんないかな」

「あ、はい、かしこまりました」

 と、出発前にメアリーはエプロンを外して外に出た。


「それでだ、まあとりあえずは神社に向かうってところからだ。三人で作戦会議でもしましょう」

「そうですね」

 なんとなく、街を歩く二人の姿は恋人同士に見えないこともなかったが、またそれも別の話である。

 神社ではらのが掃除をしていて、二人が来ると小走りで寄ってきた。

「おはらの!」

「おはらの~」

「おはらのです」

 なんて挨拶を交わして、さあいざ本題である。

「それでだ、とりあえず作戦を決めたら、まずは奴が本当に鼠かどうかを確かめなきゃならない。そこでだ、俺とメアリーは屋敷を自由に出入りすることができて、かつらのは全然普通に進入できる、それならば俺がそのライとやらを捕まえて、部屋で忍者道具で以て拷問といきましょうや」

「「そう簡単にいきますかねぇ……」」

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