第4話「小噺(一)」
メアリーが庭で植物に水をやっていると、にゃー、にゃーと猫の鳴き声が聞こえてきた。あまり遠くはない、そう、敷地の中。
屈んで茂みの奥を見ると、一匹の子猫、三毛猫が屋敷の壁に沿うように寝転がっていた。季節は夏、このまま放っておけばいずれ死んでしまうだろう。兄弟はおろか、親も見えない。
メアリーは意を決して子猫を優しく抱きかかえて、主人、エルマーの部屋に赴いた。
「猫……?」
「そこの茂みのところに一匹でいました。捨て猫なのかそれとも……」
「うーん、まあいずれ猫を飼ってみたいとは思っていたのだが、どうしたものか。今この家に猫を飼うための設備はない……」
少しの間、メアリーは考えるエルマーを見つめていた。しかし、メアリーは絶対に飼うというだろうと踏んでいた。如何せん家の前で泣いていた、というだけで声をかけて、そして素性を知ってすぐに引き取ることを考えたほどの人物である。
「今からちょっとしたものを買いにいけるかい? 確かもう少しいったところの通りにちょっとした愛玩動物なんかを売っている店があったろう。そこへ言って、少しそういったものを見てきてくれないかい? 暫くは私がこの子を見ているから」
そういうとエルマーはメアリーに幾らかのお金を渡した。メアリーは深々と頭を下げて、
「ありがとうございます、行って参ります」
と言って、屋敷を出た。
愛玩動物店に行って、店の人に猫を飼うのに必要なものは何か、と聞いたら、とりあえず必要最低限はこれ、というものを教えてくれた。とりあえず、それをすべて購入する。そこそこの重量がある、ということで、店の人が重いものは運んでくれた。
家に戻って買ったものを報告して、空き部屋に配置する。部屋は、メアリーの部屋の隣で、メアリーの部屋よりは狭いがそこそこの広さはある。
そして三毛猫を部屋に放してみる。最初はかなり警戒していたが、少しするとくつろぎ始めた。
「うん、大丈夫そうだな」
「そうですね。そういえば、名前はどうしましょう?」
「そうだな、毛が三色だからミケにしよう」
ちなみに、ミケは、雄だった。
この屋敷の人間に三毛猫の雄がレアだということを知っている人間がいるかどうかはわからないが、こうしてグラッツェル家に家族が増えた。
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