スーサイド・メロディー・アザトート

 欲しい。私の精神で沸騰する、強欲の悪魔が囁き続けるのだ。欲しい。私の脳味噌で膨張する。悪質な怪物が叫び続けるのだ。私が望むものは己を昂揚させる悪夢で在り、泡の如く浮上する絶頂の音色。誰もが知らぬ『未曾有』の楽器で在る。記憶に新しいのはエーリッヒ・ツァンの所業だが、奴の空っぽな頭蓋には魔王アザトース以外存在しない。故に私は未曾有とは呼ばす、総ては既知の範疇だと断言すべき。ならば私は何を吹けば好い。ならば私は何を呼べば好い。オーボアだ。在り得ぬ方向に捻じ曲がった、管を通して放たれる『無音』の恍惚を聞くべきだ。私の腕に掴まれた『 』こそが唯一無二の――そうだ。此処が私の中身で在る。奴の魂は消滅トルネンブラしたが、我が精神は永劫だと教えてやろう。私の名前を晒してやろう。我が名は自殺旋律。皆々! 音色の後ろに憑いて仔い――鼠は全部壁の向こうに追い夜った。朝は近いぞ。夢は其処だ。ゆっくりと。強く。弱く……高らかに。おおっと。困った。悪いノーデンス様の御登場だ! 逃げろ。逃げるのだ。我が身が可愛いならば。衝動が可愛いならば逃げるが勝ちよ。さて。皆々に質問だ。何を望む。欲しい。私の精神は愈々全貌を魅せて、貴女貴方を誘って往く――自殺旋律ハーメルン御姫様アザトートの為に。

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