我等こそが、プロヴィデンスに

 退屈だ。此処まで退屈なものは久方振りに読んだ。如何なる種でも陳腐に視える嗜好と思考の停止。酷い怪奇だ。怪奇に失礼な塵芥など回帰する価値も無い。故に私の悉くを注ぎ込み、如何しようも無い最悪を普通に吊り上げよう。先ずは麻縄を用意すべき。貴様の書いた諸々を元に死の化粧を施すのだ。夜の咆哮と蟲の囁き。アル・アジフとエイボンの叡智――私の友が繋げた数多を捧げ、莫迦を踊らせよ。操るには筆と紙と納得が必要不可欠だが、幽鬼の如き私に報酬など不要で在るぞ。博物館でも蜿蜒の延々でも何でも寄越せ。私ならば真に『普遍』へと到達させる。されど私の脳髄では皆々を歓ばせる術など在らぬ。在るのは詩人と種の誇りと夢見で、自己を満足させる魂の絶叫のみ。否。人生への否定。世界に向けた負け犬の遠吠え。さて。私は現在、塵芥じみた紙の束を放り投げた。ああ。懐かしく、美しい故郷への想起が――がたん! 何者か。妻の立ち上がる音だ。そうだ。確か妻が『海の怪物』を視たと語って在ったな。此の糞の溜まりを片付けて其方に筆を向けるべきだ。故に私は早々に書斎の扉を――汗が垂れる。強烈な冷気が背を這った。手招きするものどもの、抗えぬ『魔』の嘲笑い。思い出した。妻の『海の怪物』は綱と共に数多を引き憑き込む……助けてくれ! 無聊の群れが私を束縛した。愛すべき人よ。如何か、私の【様】を書いて終え――我等こそが、神意に憑いたもの。

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