夜の帳
人間は夜に恐怖と安堵を覚えるものだ。閉ざされた光は化け物を孕み、真実の群れを隠して終う。化け物の正体は解らないが、判る事柄が一個だけ。確実に化け物は人間を嘲笑するのだ。闇黒は時と共に過ぎ去り、再びの光を迎えるのみ。ああ。故に神は人間を創造したのだ。最悪と最高の混迷を、画面に映して歓喜する為に――さて。私が今、夜の下で歩む姿を想像した諸君。残念ながら不正解だ。私は現実の中に佇み、自身の殻に閉じ篭り続けて在る。外の景色など数年前に忘却した。如何なる明かりが。如何なる闇が私を抱擁しても、此処から引き摺り出す事など不可能だ。肌を舐るような温かさも脳を刺激するような冷たさも、私を擽る事は無い。単調な人生だ。投げ棄てるべき人生だったのだ。唾棄すべき己の生だったのだ。されど私は自らを虚空に堕とす勇気など無く、結局は幽鬼の漂いで在るのみ。恐怖に触れたならば脱出可能だろうが、私に強烈な『もの』で意識を失う術は視得ないのだ。得る方法など最初から在らず、夜の帳ですら安寧の輪郭を保てない。私は餓死すべきだ。此れが真に望む、最底辺の愚かさで在れ。接吻する悪魔の美しさが、栄養価と思考を吸い取って往く。否。違うぞ。私の腹が膨れるのは何故だ。
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