秘密

 私は最悪を知った。私は最高と共に墜落し、啜られて真の忘却を知った。されど餓えた魂が救済される事は無く、私は私の愚行と友の茫然に解放されたのだ。開放された戸口は未知への誘いで在り、冷える世界への手招きだと思考すべき。莫迦な話だろう。されど在り得ないとは断言不可能だ。私の身体は神意Providenceの何処かで木乃伊として発見される筈だ。賢明な友ならば丸々と焼き払うだろうが――さて。私の愚行とは『妖蛆の秘密』の文句を吐き散らした最期だ。不可視の吸血鬼。ゼリー状の飛行する蛆虫に束縛され、一滴までも貪られた末路。私が現在、成すべき事柄は友への祝福。即ち、守護と真っ当な人生を続けさせる『贖罪』で在れ。故に己の魂は死に絶えず、遥々と彷徨う鬼と化した。此処が何処か教えて晒そう。凍える銀の動く土地――蛆虫を嘲るならば此れが相応しい――消える前のイイーキルスで在る。単純に考える場合、私は驚くほど奇怪な行動力を沸騰させる。賭けだ。魂の奥底までを賭けた、私の大一番なのだ。魔術師が悪意に触れ、奴の殺害方法を知る前に『保護』するのだ。過去現在未来、旧支配者を認識するのはクトゥルーだけよ――私は冷気にも耐えた。赤色の球を溢れさせ、餌食を選ぶ蛆虫の姿よ。ああ。ルリム・シャイコース。貴様の望む魔術師は何処だ。必ずや貴様は捌かれるのだ。畜生! 予想通りだ。奴は私の忠告を無視し、私の魂を捕らえて蠢いた。現状は絶望的。友よ。済まなかった――待て。違う方法が一。残った希望が欠片程度。確か魔術師が奴を殺すのは今日。次に訪れるのは凍える炎だ。使えるものが視得た。さあ。始めよう。

 蛆虫は死んだ。流れるものが山を溶かし尽くす。されど我が魂は不滅で在り、永劫よりも死を哄笑する。視よ。覗き込め。極光が世界を抱擁する。文言は理解した。呪文は秘密の裏返しだ。不可視の吸血鬼を招くならば、奴等の世界に異物を押し込んでやろう。犠牲者は既に決められた。ゼリーは固めて破壊するのだ。


 手紙を届けよう。

 君は殺されなくても好いのだと。

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