闇黒を染める

 僕は恐ろしくて堪らない。盲目の誰かが現実は幸せだと笑ったが、僕は在り得ないと溜息を吐いたものだ。今現在。世界は灯りに満ち溢れ、最悪を隠すものだが、僕には底知れぬ『恐怖』が憑き纏う。粘吊くものは酷い臭いで、他者には視得ない悪夢の副産物。そうだ。此処で僕は想像してしまった。其処で世界は終ったのだ。三日月が嗤う――十字に裂けた満月の方が愉悦マシだ。赤色に歪むものなど。されど最も強烈な色彩は、鮮血に宿った『明るさ』すらも無い、闇黒の抱擁で在る。街。国。全人類が絶叫と静寂を繰り返し、総てが異常だと地球が警鐘いた。月蝕でも無い。太陽の温もりが亡くなった。クトゥガの反応も知らず、混沌の貌かと思考しても『千』の気配も触れぬ。ならば此れは如何なる現象だ。魔術師も科学者も……怪物どもが理解不可能。可笑しい。直す手立ても治す手段も壊す声も視当たらぬ――ふらり。ぺたり。人間の群れが世界を回す。人間の影が世界に回される。僕も其処に堕ちて往き、無音の黒が美と醜を殺戮した。輪郭は悉くに絶え、耐え切れぬものは貌無く死を迎えた。だが。臭い以外で骸を確認する事は不可能だ。ああ。無意味に成り果てた『物体』は。やがて失う視覚と共に崩れて……愈々。恐ろしくて堪らない真実が、僕以外の全を咀嚼して『思舞』った。思い込みの舞いだと信じ込むのが限界の証。誰か。何か。人間を。僕の脳味噌を壊してくれないか――瞬間だ。刹那だ。創造と破壊は。


 分裂した太陽三日月地球呑み込む。

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