延びる魂
俺の婆は燃え尽きた。言葉の云々と誰かは思うだろうが、事実、俺の婆は死んだのだ。何でも悪夢に悩まされて理性を放棄し、総てを忘れた末路だと聞く。莫迦な。在り得ない。結局は婆も痴れた肉の塊と成り果て、延命だとか何だとか、生き地獄に晒されたのだろう。俺は知らないが、日本の諸々は奈落の底を造るのが大好きらしい。数多の無意味を詰め込んで、ぶくりぶくりと太った死体を作るのが大好きらしい。俺には解らぬ酷い趣味だ。確かに婆は人間だった。最低限は人間で在った。だが……しかし。茶色塗れの貌や手など、人間で『在るべき』姿だろうか。全く。ああ。全く忌々しい。神様とやらが在るならば、欠陥品を創った罰を受けるべきだ。炎の中で『活き』ながら死ぬべきだ。神を殺したのは人間だが。殺した程度では贖罪にも成らず――兎角。総ては過ぎた話だ。俺は遂に本来の生活に戻れたのだ。仕事も仲間も唾棄したが、清々しい気分で己を謳歌可能。さて。此処で俺は想像した。世界は本当に謳歌可能な姿なのか。此の国は本当に生命を捧げるに『最適』な場所なのか。地球とは本当に楽園……宇宙は真に生命を抱擁可能なのか。ああ。俺が変に賢いだけか。在り得ないのだ。神が阿呆ならば全は失敗作で在る。畜生。婆の言葉が脳髄を貫く――ああ。きみ。あたしの言葉を忘れないで。お魚が視えたら彼を呼ぶんだよ――五月蠅い。糞が。黙れ……俺の精神に巣食うな。俺の根源を揺さぶるな。奔る。奔れ。俺は追い駆ける死骸を抜けて、闇黒の道を奔……空を仰いだ。宙が俺を覗き込んだ。一転。一点だ。強烈な光が俺を嗤う。あの
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