器
崩れる感覚。震える声。腐る心臓。悪意と善意の狭間にて、私は最期を迎えよう。幾週間の地獄に浸ったのか、もはや私には判らない。肚が減ったと泣き叫ぶ脳髄も、完全に沈黙の絶と化した。此れが自身の果てだと決めた時、不可思議な幸福感に抱擁された。否定する術は既に忘れ、外れた芯も偽りの底――ああ。何でも齧った。啜った。貪った。水。空気。植物。動物。在るべき物体は差別無く、私の胃袋に収めたのだ。されど結局は喰らい尽くし、最悪の終頁を捲る破目に陥った。だが。私には唯一の希望が在る。宙に浮かぶ、妙な光輝を放つ『球体』だ。仮に此れを『気』と呼称しよう。魂の方が親しみ易いが、ドウセ、人間も私だけなのだ。証明する方法など棄て去られ――兎角『気』とは正気と狂気を表す球体で在る。色彩は名状し難いが、私の脳味噌は『変質』が正しいと判断した。肉体を失った『気』は常に貌を混濁させ、私の視界を埋め尽くす。ああ! 幻覚だと思うよりはマシだ。気様等全部私の餌だと知るが好い。先ずは一個――私は莫迦な事を考えた。此れは本当に現実か。普遍的な人間が『全』を貪るなど在り得ない。次だ。二個――現実だ。此れが私を維持する、唯一の真実だ。誰も無いが、誰が在っても否定は不可能。拒絶など在り得ない――繰り返す。繰り返す。尽きた場合は反芻する。私には『気』を保つ以外に娯楽は無いのだ。楽しいものだ。
ゆっくりと。時間を掛けて。死んで終う事は。ない。
ぱらり。ぱらり。さらり。さらり。
気が触れたところ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます