お母さんへ



 拝啓


 立秋とは名ばかりの暑い日がつづいておりますが、お元気でいらっしゃいますか。


 ……まぁ毎日会ってるからそこそこ元気だとは思うけど。


 堅苦しいの、やっぱ駄目だね。お母さんと一緒だわ。だから、ちゃんとしてんのはここまで。ていうか前にお父さんに送った手紙からもう一年も経ってるのか、速いね?!



 さて、明日はなんの日でしょう?


 ――正解は、私の受験です!!



 ……明日だね、え、明日?! 面接だよ、ヤバくない?!


 お母さんは本当は大学行って欲しかったんだろうな……我儘言ってごめんね。どうしても、そのボロボロになるまで頑張ってる青いネイルを綺麗にしたかった。だからはやくネイリストになれるような専門に行きたかったの。親不孝な私に出来る親孝行はこれくらいかな、と思って。許してね。


 ネイリストになれたら最初のお客さんはお母さんだから。いつまでもお父さんに綺麗だって言い続けてもらえるようなネイルにするからさ!


 ……練習台にもなってもらうけど(笑)



 さて、SNSが主流の昨今ですが、わざわざ手紙を選んだのには理由があります。





 私たち家族を繋いでいるのは何ですか?


 そう、便箋。お父さんが最後にお母さんに残したのも、お母さんがお父さんに毎年書いているのも、私が困ったときや悩んだときにお母さんに送るのも、全部手紙なんだ。


 大切なことだから、手紙で送らせてください。



 メールやSNSなんかだと、機種変更したら消えちゃうし、温かみもなにも感じられないでしょう? それに、手紙の方がなんだか気持ちが素直に伝えられるような気がします。




 だから、


 お母さん、いつもありがとう。私は明日の受験で夢に向かって一歩踏み出します。道のりは険しいだろうけれど、お母さんとお父さんが見守っていてくれるのなら私は無敵です!


 ここまで育ててくれてありがとう。我儘な夢を語っても、否定なんか一切せずに応援してくれてありがとう。


 まだまだ迷惑はたくさんかけるだろうけど、少しずつ恩返しが出来るように頑張ります。



 まずはネイリストになって、お父さんを一生惚れさせ続けるような青の綺麗なネイルをお母さんに出来るように頑張ります。


 人の笑顔を見るのも好きだし、私には向いている仕事だと思っています。こうして自信をもって前に進めるのも、背中を押してくれたお母さんのおかげだよ。本当に感謝しています。


 親不孝な娘でごめんなさい。でも後悔はしていません。



 これからもずっとずっと、よろしくお願いします。



 暑さも厳しいから、夏バテ気をつけるんだよ? 仕事も程々に。最近食べてるご飯の量減ってるからちょっと心配。ちゃんと食べないとぶっ倒れるぞー!!



 じゃあ明日、頑張ってきまっす!


                敬具



          自慢の娘、春より(笑)

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