試合開始(その6)

 伯爵がカードを配り終える。

 うふふ、凄い引きね、私。


 なにせ、手持ちのカードが「ハートの8」「ダイヤの8」「スペードの8」「ジョーカー」「ジョーカー」。文句なしの「ファイブカード」よ。


 これに勝てる役はたった一つ。「ロイヤルストレートフラッシュ」のみ。

 うふふ、龍野君。見事、勝利を掴むことは出来るのかしら?

「…………」

 ふふ、逡巡しているわね。

 けれど、互いに持ち駒を全て賭けた、最後の勝負。

 劣った役を出すのは勿論、降りても負けが確定する。

 ゾクゾクするわ、絶体絶命の状況に龍野君を追い込んでいるというのは。



「2枚交換を」

 龍野君が決断を下した。

 あくまでも戦うのね、龍野君。


 ならば見せてちょうだい。下した結論が、正しいかどうかを、ね――!


「それではお二方、開示を」

 伯爵の号令が下された。

 同時に、周囲の大気が濃密なものへと変わり始める。

「ヴァイス」

 龍野君が、私に声をかけた。

「恨みっこなしだぜ」

 うふふ。余裕か、それとも「自らは敗北した」という宣言か。

 いずれにせよ、返させてもらうわ。

「ええ、わかっているわ」

 その言葉を聞いた龍野君の表情は一瞬緩み、けれどすぐに引き締まる。流石ね。


 それを確定した私は、手札を開示した。



 私の役は、言うまでもなく「ファイブカード」。

 さあ、龍野君――って、え?


 そのカードは……「スペードの10, J, Q, K, A」。

 間違いないわ。

 「ロイヤルストレートフラッシュ」。


 うふふ――。私の、完敗ね。

「伯爵」

 私は伯爵を呼ぶと、手持ちの駒全てを伯爵の側に置いた。

「試合は終わったわ。龍野君の勝ち、よ」


 そう。

 先ほど手札を開示した瞬間――龍野君の勝利が、決まったのだった。

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