試合開始(その4)

「ありがとうございます」

 伯爵から配られた手札を見ながら、私は微笑んだ。

(龍野君。貴方、精神攻撃に弱すぎるわよ)

 実際、私の仕掛けたブラフは見事に決まっていた。

 最初の勝負は敢えて適当な役を用い、様子を見る。敗北したら、最も勝率の高い行動を行いつつ、強い役を揃える。仮に勝利しても、次の勝負で弱い役になるように調節すればいいだけだ。

 そう。手順として、


 最大限に、ハッタリを効かせる下準備を整えるために。


 運に支配されるポーカーだが、それでも私は恵まれていた。

 何もしなくても、望んだカードが自ら手札になる。まるでカード自身に意思があるように。


 けれど、この程度で浮かれてはいられない。

 龍野君を鍛えるには、追い込みの最終段階に入らなくては。

 私は配られたカードを見る。

 「スペードの2, 3, 4, 5, 6」。言うまでもなく「ストレートフラッシュ」であった。

(ふふ、ありがとう。けれど、ごめんなさいね。私が望んで龍野君を打ち負かすのは、本意じゃないの)

 私は「スペードの6」を手に取ると、伯爵に交換を依頼した。

 ふふ、このカードは……。



 さて、龍野君も手札を揃えたみたいね。

「それではお二方、開示を」

 伯爵の声に合わせ、手札を開示する。


 龍野君は「クラブの7, 10, J, K, A」。「フラッシュ」ね。

 一方の私は、「スペードの2, 3, 4, 5」、それに「ダイヤの2」。「ワンペア」だった。


「ふふ、負けね」

 私は潔く、4つのポーンを伯爵に手渡す。

 龍野君、自信を付けてくれたかしら?


 龍野君が2つの駒を置いたのを見届けた私は再び、4つの駒を置く。

 伯爵からカードを配られると、手札の役を確認する。

 「ハートの3」「ダイヤの4」「ハートの8」「スペードの10」「ハートのK」。

 このままでは「ハイカード」。

 だから、カードを交換しなければ駒を無駄に失う。

 私の中の最適解は、一瞬で導き出された。

 迷わず「ダイヤの4」「スペードの10」の2枚を伯爵に手渡す。

 手元に来た、カードの図柄と数を確認した。

 うふふ、笑みがこぼれてしまったわ。さあ龍野君、貴方は立ち向かうのかしら?



 龍野君が逡巡しゅんじゅんすること三十秒。

 ついに戦うことを決め、手札を揃えたようね。わ、龍野君。

「それではお二方、開示を」

 伯爵の声に合わせ、手札を開示する。


 龍野君の手札は「ハートの5, 6, 7」に「スペードの8, 9」。「ストレート」ね。

 私の手札は「ハートの3, 8, K, A」に「ダイヤの7」。

 ふふ、私ともあろう者が、「ハイカード」を出すなんて。


 けれども、負けは負け。

 私はすぐさま、賭けた駒4つを伯爵に渡した。


 それに、私は今、至上の喜びを感じているの。

 龍野君が、ことに。


 さあ、龍野君。

 最早もはや真剣勝負となったこの試合、純粋に楽しませてちょうだい。


残りの駒

  龍野:4個

ヴァイス:7個

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る