本当にあった怖い話2「スマホの壁紙」

詩月 七夜

スマホの壁紙

 私の友人の話をしよう。


 私の学生時代の友人…仮にA(男性)とする…は、俗に「スマホ依存症」といわれる人種だった。

 寝食共にスマホと共にあり、片時も手放さない。

 とあるゲームアプリにハマっているせいもあったが、どうもスマホそのものが身体の一部のようであり、とにかく傍にないと落ち着かないというのだから、筋金入りである。

 現に、友人同士でドライブ旅行に出かけた際、Aが自宅にスマホを充電したまま、うっかり置き忘れたことがあった。

 その時はAに懇願され、わざわざ車でAの自宅を経由してから出かけたものだ。

 「諦めろ」「別になくてもいいじゃん」との皆のブーイングに、Aは「夕飯、豪華なのおごるから」とまで言って、実際に料亭でおごったこともある。

 それだけ、Aにとってスマホは大事なものだったのだ。


 そんなAだったが、現在はスマホを持つことをやめたらしい。

 あんなにスマホに固執していたのに、にわかには信じ難い話だった。

 しかし、実際にある機会にAと久し振りに再会した私は、彼がスマホを所有していないことを教えられ、ビックリした。

 その理由を聞くと、Aは「ちょっとな」とか「金が無くてさ」とか曖昧に濁していた。

 でも、どうにも気になった私は、彼とサシで飲み始めた際に、ドライブ旅行のエピソードなどを回想しながらスマホを絶った理由を問い詰めた。

 すると、最初は笑っていたAだったが、そのうち口数も少なくなり、ついには無言になってしまう。

 「しつこ過ぎたか」と、話題を変えてごまかす私に、Aは見たこともない真剣な顔で話し始めた。


「俺さ…もしかしたら、もうすぐ死ぬかもしれないんだ」


 唐突な告白に、呆気にとられる私。

 そして「冗談だろ」と流そうとすると、Aは暗い表情のまま続けた。



 ああ、そうだ。

 ここまで読んでくれた皆さんに言っておく。

 ここから先は、スマホ好きな人は読まない方がいい。

 特に日常的にゲームやインターネットで使う人(結構いると思うが)は、やめておいた方がいい。

 あまり気分のいい話ではないからね。

 じゃあ、続けるよ。

 忠告はしたからな。



 ここからは、A自身の体験談になる。

 まだ、スマホを愛していた頃、Aはスマホの設定にもこだわりを見せていた。

 特に凝っていたのが「壁紙」だ。

 Aはスマホのホーム画面の壁紙に、シーズンごとにきれいな風景や好きなアニメやゲームなどの壁紙を好んで使い、それらを代わる代わる設定し、楽しんでいたらしい。

 そんな折りのこと。

 当時ハマっていたスマホゲームに臨時メンテが組まれたため、時間を持て余すことになったAは、何気なくネットをさまよっていた。

 で、とあるサイトに辿り着いたんだ。

 そこは怪談や都市伝説を取り扱うサイトで、色々な体験談などがスレッドで掲載されていた。

 そこに「検索禁止」というスレがあり、Aは何気なく読んでみたんだそうだ。

 すると、コメントもないそのスレッドには、ただこう書かれていた。


Name:名無し ID:×××××××××[●●●●年●月●分4時44分]



「壁紙」「カウント」「死亡」「●●●」



---------------------------------------------------------------

【作者より注意】

危険なため、最後の検索ワードは伏字にさせてもらいました。

ご理解ください。

---------------------------------------------------------------


 こんな感じだったらしい。

 最初、下らない単なる脅しだと思ったAは、その四つの検索ワードを忠実に打ち込み、某有名検索エンジンで検索した。

 すると、一瞬で画面がブラックアウト。

 だが、すぐに電源を切った際に出るスマホメーカーのロゴが表示されたので「少し調子が悪いのかな」とAは思ったらしい。

 ややもすると、再起動が始まり、普通にスマホが立ち上がったので、Aは安心した。

 が、画面の様子が様変わりしていた。

 まず、その時気に入っていたホーム画面の壁紙(PRG世界の幻想的な風景だったらしい)が、見たこともない竹林の壁紙に変わっていたんだそうだ。

 薄暗い竹林の中央には、緩やかに左にカーブした小さな階段状の坂道があり、その坂道に沿って火が灯された蝋燭が立てられている。

 Aは見覚えのない壁紙データだと認識していたが、何枚も壁紙をコレクションしていたので「ずっと前にダウンロードしたんだっけか?」程度にしか考えなかった。

 それに、その竹林の壁紙が幻想的で美しかったこともあり、そのままにしておいたんだそうだ。


 その後。

 しばらくは何もなく、Aはそのスレッドのことも完全に忘れていたらしい。

 が、度々変な迷惑メールが届くようになった(この頃、LI○Eはまだなかった)。

 それは、



 送信:非通知

 件名:あと87

========================

ま 田   ゛

    m    i   ヱ

  7 1



 ってな表示だった。

 最初、非通知相手からの嫌がらせで、面倒に思っていたAだったけど、そもそもメールで「非通知」ってのもおかしな話だ。

 通常の迷惑メールなら、相手がAのメルアドを何らかの方法で知り、それに機械かなんかで自動送信するから、不規則なアルファベットや数字みたいなアドレスが表示される。

 だから、着信ならともかく「非通知」ってのはあり得ないはずなんだ。

 けど、Aはその時、その異変には気付かず、メールをせこせこ削除していたんだそうだ。


 そんなある日。

 また非通知メールが送信されてきた。

 今度は、



 送信:非通知

 件名:あと30

========================

も 卯

    す g   u


  1 94



 という表示だった。

 これを見たAは、ぞっとなったという。

 一見不規則で、何の意味もないいたずらメールだと思っていたが、よくよく考えて見ていくと



ま田゛miヱ7 1 ⇒ まだ見えない

も卯すgu194 ⇒ もうすぐ行くよ



 と読める。

 それに件名のカウントが、徐々に減っているのも恐ろしい。


 怖くなったAは、携帯電話ショップに相談するも、全く解決にならず。

 スマホに詳しい友人にも相談したが「考えすぎ。ただの悪戯だって」と、真剣に話を聞いてもらえなかったようだ。

 そうしていると、今度は



 送信:非通知

 件名:あと22

========================

m     1

    Ⅱ け

  t a



m1Ⅱけta ⇒ 見ぃつけた



 遂にそんなメールが届く。

 そして、信じられないことが起きた。


 例の竹林のスマホ壁紙…その緩やかな坂道の奥の暗闇に、今まで映っていなかった白い人影のようなものがボンヤリ映っていたのだ。


 驚いたAは、慌ててスマホ内の画像データを探すも、その竹林の画像がどこに保存されているのか全く不明。

 設定で壁紙を変えてみたものの、その時は変更されるが、しばらくすると今度はロック画面になっていたりと、とにかく変更や削除が出来なかった。

 そうこうしているうちに、白い人影は、一日ごとに画面に向かって近付いて来ている。

 目を凝らすと、表情は分からないが、どうやら白い着物を着た女のようだったという。

 そして、Aはさらに恐ろしいことに気付いた。

 メールの件名「あと○○」の数字。

 それは、坂道にある階段の段数と一致したのだ。


 ここに至って、Aは気も狂わんばかりに恐怖し、携帯電話ショップに駆け込むと、一挙に契約を解除したという。

 急な解約に店員には不審がられたが、どうにも気味が悪くて仕方がなかった。

 最後に携帯電話が不通になることを家族・主だった友人達に(この時、私とAは社会人になっていて、私がメアドを変えてから、疎遠気味だった)メールで一斉に送信した。


 すると、早速一件、返信が。

 受信フォルダを開いてみて、Aは青ざめた。

 差出人は「非通知」

 内容は…


 送信:非通知

 件名:あと17

========================

2 が   3     ナイ




2が3ナイ ⇒ 逃がさない




 Aからこの話聞いてから今日まで、私はAに連絡を入れていない。

 だから、Aがどうなっているのか…それは分からない。


 一連の出来事は、ただの悪戯だったのか。

 それとも…


 私は、怖くていまだにAに電話をかけることが出来ないでいる。




 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当にあった怖い話2「スマホの壁紙」 詩月 七夜 @Nanaya-Shiduki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ