2008年4月24日 12時35分 最後の舞台、のあと
「長い夢を見ていた気がする」
カーテンを隔てて、寝ているかもしれない同級生に、僕はつぶやいた。
「ここが現実じゃないみたいに?」
静かな返答は、どこまでも優しかった。
だから、カーテンを開けてはいけない。
「私も、そう」
この早瀬は、一万回を越える人生を繰り返したのだから。
これ以上甘えるわけにはいかないのだ。
「けれど、終わりはあるから」
物語の終わり。
人生の終わり。
「終わりが救いになることもあるでしょう?」
僕には答えられなかった。
泣いていることを悟られないために、黙っていた。
それっきり、カーテンの向こう側から声は聞こえなくなった。
「始まりがなければ、終わりもない、か」
「まさか、あなたにあのキーワードを言わせないようにするなんてね」
夕暮れの屋上で、坂本と藤原はフェンスにもたれかかっていた。
昼休み、自動販売機でジュースを買おうとした女子生徒が悪質な自販機のいたずらの影響で、保健室送り。
同じ頃、保健室から帰ってきた男子生徒が再度体調を崩し、倒れこむ。
食堂前は大変な騒ぎとなった。
坂本がことばを飲み込んでしまうくらいには。
「これからどうするの?」
劇団ふりかもは、恐らくは結成されない。
「まだ誰も見たことがない未来ってやつに、行くんじゃないかな」
「…………そう。この時代で生きていくのね」
「悪いね。だから見逃してくれない?時空警察さん」
「見逃すもなにも、ここまでしっちゃかめっちゃかにしてくれたのだから、あなたが帰る場所なんてもうどこにもない」
「……やっぱりか」
「せいぜい先行き不透明な余生を楽しんで。未來であなたのデータベースを見るのを楽しみにしてるから」
藤原三郷はゆったりと笑って、先に屋上を後にする。
「元気で」
手をふって答えるものの、決して振り返らなかった。
2008年4月24日、昼。
自動販売機のジュース取り出し口にスイッチが取り付けられていた。
ジュースを購入し、取り出し口から落ちてくるとスイッチが押される。
するとゴミ箱の中から黒ひげ危機一髪が飛び出してくる。
改造された一連の装置は、何代か前の科学部が作成し、準備室の片隅に置かれていた。
犯人は科学部員の西川があがったが、彼は集会に参加していた。
身体が空いていたのは、集会中に体調を崩し、保健室へ向かった大宮悠ただ一人。
疑惑の目が向けられるも、腹を下して保健室に運ばれたあと、理科室の純水を飲んだことを告白し、病院送りへ。
教師陣からはマークされたものの、空広の七不思議として、この日の出来事は迷宮入りとなった。
坂本はムードメーカーとして。
藤原はせっせと文章を書いている早瀬にやたらと構って。
そして僕は、一人演劇部員として怠惰な生活をしながら、今日も西川に理科室へ連れ去られている。
「なあ俺、授業以外で理科室出禁食らってるんだけど」
「らしいね。そりゃ、純水一リットルがぶ飲みして腹壊すぶっ飛んだ人間は出禁にする」
「じゃあなんでここに 」
「大宮の話をしたかったからさ」
くるりと振り返った 西川の手には、黒ひげが握られている。
「未来からきたんだろ?」
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