20080424 12:05
そういうことをしないと出られない部屋。
キス、あるいはその先。
指定の身体接触を伴わないと、謎の力で部屋から出ることができない。
この設定は、主題としてはありがちだった。
友人同士、あるいは犬猿の仲。
ルールにより関係性がどう変わるかを神の視点から見るのがキモだ。
もちろん本人たちには災害以外のなにものでもない。
ただ、幸いにも、今回放り込まれた不運な二人の男女は、カップルだった。
そういう経験がないだけの。
出るためにはどうするか。
答えは決まってる。
けれど神の予想に反し、そういうことをしようという結論には、ならなかった。
そして、管理者は更なるペナルティを与えた。
そんな話をどこかで見た気がするのだけれど、題名がどうしても思い出せない。
まどろんでいたい誘惑を、誰かがぷつりと断ち切った。
見慣れた天井は、空広高校保健室。
腕時計は12時5分をさしていた。
そろりそろり。気づかれないようポケットに手を入れる。
布団の中で、くしゃくしゃになった紙の感触を掴んだ。
掛け布団にもぐりこみ、引っ張りあげると千円札が二枚。
今にも消え入りそうな文字で、西川の字が踊っていた。
俺はお前と友達でよかった。
ボールペンで書かれたはずなのに、見てるそばから薄くなる。
僕は青いかもめの過去に飛び、それまで生きてきた僕を乗っ取った。そして数ヵ月を過ごし、早瀬の死んだ世界へ戻ってきた。
僕が戻った後の世界は、乗っ取られた方の僕が生きたのかもしれない。もしくは、僕が生きたままで、中身が先に現代へと飛んでしまったのかもしれない。
ここに来る前に西川が意味深なことを言っていたから、多分後者なんだろう。
手の甲で目のあたりを拭う。
僕は過去の自分を殺す。
関わる人もきっと変える。
メッセージを書いた西川だって、厳密には消えてしまうだろう。
それでも僕はやりとげたかった。
早瀬を死なせないために。
何度だってやり直す。
昼休みの食堂近くには、まだ打ち解けていない坂本がいる。
明け透けな話をして、離れたところの自販機前には藤原と早瀬がいる。
タイミングは分かってた。
「振り返ればあのときヤれたかも」
坂本の言葉に重なった僕を、隣の西川が驚きを隠せないで見た。
早瀬と藤原が振り返る。
坂本は一切の感情を消し、作り笑いで単身近づいた。
「すっげえ、ハモったな」
「……なんとなく、言いそうな言葉が分かったから」
「予知能力者かよ」
「どうなんだろうね」
僕は僕だけど僕じゃない。
一歩も引かず、にらみ返した。
「なんか、お前と話合いそうだわ。顔貸してくんね?」
答える前に、大柄な坂本に肩を捕まれ、外へと連れ出される。
「あ、大宮!」
「ごめん西川、パンかなにか、買っといて」
崩していった流れの先になにがあるのか、きっと坂本は知っている。
僕の予測が正しければ。
役者は一人だけじゃない。
「大宮、集会中ぶっ倒れたんだよな」
「みたいだね」
「他人事かよ」
「ぶっちゃけそうだ」
「中身変わったみたいだよな」
湿った体育館裏で、ジャブを投げたのは向こうだった。
「坂本こそ、全部見透かしたみたいな顔してる」
一歩も引くつもりはない。
「未来から来たんだろ」
盛大な爆弾を投げつけた。
さあさあと桜の花が散っていった。
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