20080424 12:35

「おまえ、ほんっと面白いこというよな」

「俺は本気だけど、坂本」

 愛想笑いが完全に消えた。

「頭おかしいんじゃねえの? 」

「振り返ればあのときヤれたかも」

 への時に曲げて、未来人は黙る。

 この言葉は強力な武器だ。

「おまえはこういって、俺をループに引きずり込んだ」

「いや、だから何いって」

 坂本のポケットの携帯が鳴った。

 目線はこちらに、そして携帯を出して確認する。

「振り返れば」

 同じ件名が、ディスプレイに出たはずだ。

「アドレス、まだ教えてないだろって顔してる」

 連絡先の交換は、明日みんなでやるはずだった。

坂本はすっと表情を消す。

「誰から聞いた?」

「何回も交換したんだから、覚えるよ」

「…………ハッ」

 意味ありげに口角をあげ、僕のポケットも少し震える。

 空メールが送られてきた。

「……何回めだ」

「これで3回目」

「結構気づくの早いじゃねえか」

「……認めるんだ」

「お前もな」

 ぴりっと静電気が走った。

 春なのに。

 緊張感がそこかしこに張り巡らされている。

「どうせ授業内容も頭に入ってるだろ?じっくり話そうぜ」

 勝手に話を進め、大股で離れていく。

 空腹を感じ始めた腹時計のアラームをたたき切り、僕は坂本の後をついていった。



「お前の言うとおり、俺は未来から来た。お前のいた10年後より、もっともっと、後の時代だ」

 バカになった扉から、フェンスのない屋上へと上がる。

 立ち入り禁止のおかげで他に人はいない。

 予鈴が鳴る。

 授業よりも、僕にはこっちのほうが大事だった。

「ほんとに、未来人か」

「お前みたいに、中身が10年前の坂本とでも思ったか?」

「そう、考えてたんだけど」

「坂本和真って人間は、いねえよ」

 坂本和真の顔をして、覚えている友人の口調と声で、自称未来人はぶちこんでくる。

「坂本和真自体が、未来人って、こと?なにかの目的を達成したら僕たちの記憶から消されるとか」

「いや、お前みたいなもんだ。ここにいる大宮悠は、高校生の体に27歳の中身が入ってるだろ。じゃあ17歳の、その体の持ち主はどうなってるのか、ってなるじゃんか。未来人の俺は坂本和真のガワを借りてるって思ってくれ」

「……いつから」

「最初からだ。ふりかも作ったときからだよ」

 本鈴が鳴る。

 足に力が入らない。

 最初から、坂本は坂本じゃなかったなんて、がらがら思い出が崩れそうだ。

「……悪い、刺激が強すぎたか。初っぱなから言う話じゃなかったな」

 腹になにも入っていない状態で助かった。

「……いや、どっちにしても聞かないと前に進めないから。こっちも、確認したいことがあったしさ」

「おお、いいぜ。なんでも聞けよ。答えられることならいうから」

「……坂本は、なんで未来からやって来て、何回も繰り返すの」

「…………あー、いきなり核心か。まあ、いいか」

 坂本がチューインガムを放り込む。

「お前も食べろよ」

 受け取ったチューインガムは、既製品で、よくみるメーカーのものだった。

「あやしいもんじゃねえからさ」

 僕は黙って包み紙をあけ、口に入れた。

 人工的なブドウの味がした。

「俺の後始末と、お前たちの意地の張り合い」

「………は?」

 話が見えなかった。

 坂本の膨らましたフーセンが割れた。


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