2008/4/24 16:30
「早瀬は死ぬの」
「うん。10年後、同窓会の日、車に跳ねられて」
たぶん、あれは即死だ。
結末を見届ける前に過去に飛んでしまったけれど、確証はあった。
クラスメイトの死の予言。
悪質な冗談。
そんなの死んでも言わないだろうと思ってくれるほどには、信頼関係が築けていた。
「……で、一回目のタイムスリップは、やっぱり早瀬が死んだの」
「そう。6月に通り魔にやられた。こっちではそういう通り魔事件とか起きてる?」
「いや、ない。通り魔の件は、バタフライエフェクトが大きく働いたんだと思う」
他に誰もいない科学準備室で、僕たちは話を整理していた。
早瀬を死なせたくないのに、こんなに早く死んでしまったのは選択肢を間違え続けたに違いない。
僕たちはそう考えた。
となれば、一回目の選択はバツだ。
「元の時代と一回目、なにが違ったか思い出せるだけ思い出して」
「あーっと……明日になったら、坂本が押しかけてきて、劇団を作る。これは変わらないと思う。ただ、その前日、つまり今日、一回目のタイムスリップで、「振り返ればあのときヤれたかも」の言葉に、俺は振り返れなかった。言葉を聞いてぶっ倒れた。元の時代は、俺は振り返った。今日も振り返ったから、通り魔ルートにはたぶん行かないとおもう」
「それだけじゃなんとも言えないな……」
「一回目の流れはズレまくってたから。信じられるか?俺、藤原三郷にアタックされまくるんだって」
「未来からきた前提がなかったら頭大丈夫かって真顔で聞いたところだよ」
静かな時間だけが流れていた。
それでも、いくらあっても足りないと思った。
ふっと訪れた静寂に、西川は顔の前で手のひらを組む。
「なにか考えがある?」
「西川には、できるだけ、何も考えずに受け答えをしてほしい」
「バタフライエフェクトを広げないため?」
「そういうこと」
「……わかった」
不確定要素は、小さい方がいい。
西川も、変えたいと思ってくれているとは思う。
だからこそ、動いてもらえると、回答が変わると、未来さえ変わってしまう。
協力をお願いしていてなにもするなと言っているのと同じだ。
それでも飲み込んでくれていた。
それが僕にはありがたかった。
「それでは、振り返ればヤれたかも、結団式を始めまーす」
「いや、待って、おかしいから」
「はい、拍手ー!」
「いぇーい!」
「いや、待って、そこのバスケ部と約1名」
「んだよ、せっかく部員一人の演劇部で演劇やろうとしたのにさ」
「そもそもそれがおかしいからね!?」
早く帰ろうと思ったら、演劇部の根城に連れ込まれる僕。そこに満面の笑みで座っている坂本、あとからやって来た藤原三郷と早瀬アキ。
ここは変わらない
「西川、ごめん、説明プリーズ」
「俺も分かんない。主犯、自供をよろしく」
水を向けられた坂本は、広い部屋にぽつんと集った残り四人を見渡した。
「空広ってさ、クソみたいな校則あるじゃん、全員部活には入れってさ。でも、みんなやりたいことやってるわけじゃないわけよ」
まるで台本みたいに、同じセリフを。
「だから、好き勝手やりたくて演劇部借りるから」
「いや、好き勝手やりたかったら、部活作ればいいじゃん」
「でも、あるのを有効活用すれば早いだろ」
「…………演劇ウチにこだわるのは、なんで」
棒読みにならないように、記憶にある発言をなぞる。
みんながみんな。カメラが回っているみたいに。
そして繋がる、僕の言葉。
「……勝手にしたら」
それが精いっぱいだった。
むなしくても、あのときと同じようになぞって。
あの瞬間と同じ光景を繰り返さないように、間違えないように生きなおしていきたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます