2008.4.25 16:00
「それでは、振り返ればヤれたかも、結団式を始めまーす」
「いや、待って、おかしいから」
「はい、拍手ー!」
「いぇーい!」
「いや、待って、そこのバスケ部と約1名」
「んだよ、せっかく部員一人の演劇部で演劇やろうとしたのにさ」
「そもそもそれがおかしいからね!?」
多目的室での正論は、まったくもって無視された。
保健室を帰され、実家に帰り、なんとかやり過ごして起きたときの絶望。
そして今さらながら勉強する諸々。忘れ去った知識でずたぼろの小テスト。
早く帰ろうと思ったら、演劇部の根城に連れ込まれる僕。そこに満面の笑みで座っている坂本、あとからやって来た藤原三郷と早瀬アキ。
「西川、ごめん、説明プリーズ」
「俺も分かんない。主犯、自供をよろしく」
水を向けられた坂本は、広い部屋にぽつんと集った残り四人を見渡した。
「空広ってさ、クソみたいな校則あるじゃん、全員部活には入れってさ。でも、みんなやりたいことやってるわけじゃないわけよ」
だろうな。
大人が管理したいだけの世界。
心のなかでだけ突っ込む。
「だから、好き勝手やりたくて演劇部借りるから」
「いや、飛躍しすぎだから!」
論理が破綻で理解が迷子。
雲の上の存在は、なにが何でも演劇部を五人体制にしたいらしい。
「好き勝手やりたかったら、部活作ればいいじゃん、新しく作るのは規制されてない」
「でも、あるのを有効活用すれば早いだろ」
それを言われると困る。
まあ、面倒な手続きよりかは乗っ取るほうが簡単だ。
「もうちょっと未来的な話する?俺、大宮がたった一人の演劇部員で、満足に活動できてないっていうの知ってんだよ。でも、特に勧誘も練習もしてないのもなんとなく分かる。俺たちが入ったら、うるさい外野もいなくなる。悪い話じゃないと思うけど」
考えなしかと思えば理詰め。
アホだと見くびればバカを見る。
坂本和真はそんな人間だった。
「…………
僕が10年先から来た以上、それには理由が必要だった。
振り返ればあの時ヤれたかも。坂本が発した一言に、僕と早瀬が振り返る。
食堂近くの渡り廊下。
僕達は目があって、その様子を西川と藤原が見ていた。
発信源の坂本が、運命じゃんと軽く言い、放課後に演劇部へ押しかけダベるようになった。
なし崩し的にできたのが、劇団「振り返ればあの時ヤれたかも」。
略して「ふりかも」。
ちょうど今頃だったはず。
理由がないのに、帳尻だけ合わせられそうな。
こんなやり方、ゲームマスターじみて、今のところは信用できない。
「みんなの夢が叶いそうだから!」
突如声をあげたのは、藤原だった。
頭の上のおだんごは、女子の間で流行っているらしい。
「あたし家庭科部なんだけどさ、料理メインで裁縫とかあんまりしないわけ。被服やりたいからさ、衣装作らせてよ」
「じゃあなんで最初から演劇に……」
「あの先輩達とあたし、多分性格合わないって思ってから。多分同いともそうだと思ったし」
活発で言いたいことが言える彼女と、好きなものはとことんつきつめる先輩たち。そして同級生立ち位置も違ってて、そうだな、ときっぱり認めるのはまずい。血を見るのはごめんだ。
「で、アキは文芸部なんだけど、幽霊多くて。せっかく真面目にやってるんだもん。作品、日の目を見るべきじゃない?脚本とか」
まさかの、オリジナル。
「西川、ちょっと」
僕は我慢ができなくなり、腹心の友を隅に引っ張った。
「坂本はもういいよ、やりたいようにやってるんだろうから。西川はどうして」
表舞台に立とうとする方じゃない。女子二人みたいに何かをやりたいという気持ちや夢も、特に抱いてなかった。
「大宮の精神安定剤かなあ」
のほほんとしつつ、さらりとどでかいことを言う。
確かに僕は、こんなメンバーで会話をするのは隣に見知った西川がいないと無理だった。
「あと、こういうのも、いいかなって、俺も思った」
こういうの。縁がないと思っていた友達付き合い、青春とかそういうもの。
振り返ったら、スパイスみたいに刺激的で、日常を引き立てた。
「……勝手にしたら」
それが精いっぱいだった。
あのときの僕らも、そういう気持ちを持っていたのだろか。
今となってはわからないけれど。
それでも。
今では、あのときと同じようになぞって、
あの瞬間と同じ光景を繰り返さないように、生きなおしていきたいと思った。
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