4、愛のカタチ

※         ※        ※

 しばらく、まだ目を瞑らされたまま背中の上で揺られていた。体温をすごく感じる。

 ……温かい。

 そのうち、そっとおろされて再び手を引かれ、何か椅子のようなものに座らされた。さっきまでとは対象的に、ひんやりと冷たい温度が背中から伝わってくる。

「何があっても、抵抗しちゃだめだし、目も開けちゃだめだよ。俺、知らないからね?」

え、ちょっと……と言っても聞こえてなんかいない様子で、樹斗はそっと口を塞ぐように優しくキスをした。

「初めて……だね。まだプリンの味がする。……愛佳、甘い」

 恥ずかしい。

 恥ずかしいとしか、考えられない。

 そんなことを思いながらフリーズしていると、両手首に、樹斗の手が触れた。また、温かい。

 そしてそのまま両手首を合わせられ……。

 縄のようなもので、縛られた。

 手首の次は腰、椅子にくくりつけられる。「ねぇ、何してっ……」

 声を出すと同時に目を開くと、目の前には心底愉しそうな樹斗の顔があった。その顔はぐにゃりと歪んでいるようで、寒気がした。

 カプッ

 途端、首筋に電流が走った気がした。私はもうすでに縛られていて動けない、逃げられない。何が起こっているのか、全く理解できなかった。

 樹斗の頭がすぐ近くにある。樹斗が…噛み付いている。私の首筋に。ゾッとして、動けなくなる。体だけじゃなくて、心も。

「あれ、もう抵抗するのやめたの?」

「……。」

 もう、何も言えなくなっていた。怖い。とにかく怖い。樹斗が私から一歩離れて私の足の辺りに立った。どうしよう、何しようかなぁ……と動けない、ただの物と化した私を嘲笑っている。

 ……今だっ、と反射的に思った私はまだ唯一拘束されていない足を全力でばたつかせた。足が何度も樹斗に当たる。さっき怪我した膝が痛い。それでも、抵抗する手段はこれしかない。

 最初こそ驚いたような顔をしていたが、次第にまた笑顔に戻り、最後には真顔になり、そして、愛佳のみぞおちに拳を喰らわせた。うぐっ……と思わず声が出てしまい、一瞬、目の前が真っ暗になった。

「……ねぇ」

グイッと髪の毛を引っ張られ、顔を至近距離まで持っていかれる。耳元でドスのきいた声が聞こえた。こんなに低い声を聞いたのは初めてだった。思わず涙目になる。それを見た樹斗は少し満足げな顔をした。


「大好きな人の瞳に、今、俺だけが映ってる。俺が、この俺が愛佳の美しい顔をこんなにも歪めたんだ。……なんて、幸せなんだろう。ねぇ、これからもずっと、俺だけを見てて? 俺しか見えないように、してあげる。俺以外、愛せないように」


 樹斗の瞳に映った愛佳の顔は恐怖の色に染まり、強張ったまま動かなかった。……が。

 ほんの少しだけ、愛佳の口角はピクリと動いていた。






『……嬉しい。ありがとう──』

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愛のカタチ 愛佳 @furea0825

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