第9話 新しい依頼

 洞窟を出た私達は野戦陣地で休息を取っていた。一応、マシラエイプ退治の功労者ということになってるらしい。侵獣がマシラエイプを召喚してたって話も出たから、詳しい話は神殿騎士達が到着するのを待ってからって事になってる。一応、使徒であるリオネさんの支援神術で倒したって話にするつもりだから口裏だけは合わせておかないと。というわけで、防音の魔術を使って相談。


「と、こんなところかな?」


 リオネさんが使える神術と能力を改めて確認したけど、ホントに癒神様の使徒なのが不思議なくらい武闘派。いや、覚えてる神術はちゃんと治癒系だったよ。だったんだけど……。傷を治す治癒神術と病気を治す快癒神術以外は『戦っている間だけ治癒が発動する神術』だとか、『受けた傷を相手に移す神術』だとか、微妙に戦闘系に偏ってて、支援って感じじゃないんだよね。結局、私が魔術で支援したって話の方がまだ信憑性がある感じに。まあ、私もハルも魔術は使えるから、侵獣と戦うのは難しくないっていうのが幸いかな。


 それから半日ほど経った頃、神殿騎士達が野戦陣地にたどり着いた。最初は討伐用の装備を準備していた所に私達が侵獣を捕えたって話が来たもんだから、慌てて移送用の装備を準備し直したらしい。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。彼らが持ってきたのは侵獣移送用の天馬車だ。でも、ねえ。おずおずと侵獣を捕えた檻を取り出す私。うん、とても手のひらサイズだ。


「こ、これは神々が使う神具では?」


 一応、これもリオネさんが持っていたってことにしてある。国によって違うらしいんだけど、この国の神殿騎士は基本的に信者さん達だ。国によっては祝福を受けた人達や使徒が神殿騎士をやる場合もあるみたいなんだけどね。だから、使徒であるリオネさんが神殿騎士よりも高性能な装備を持ってるのは何もおかしくない。リオネさんは人間や亜人種から使徒になった従使徒じゃなくて純粋な使徒である下級使徒だから尚更。それから私達は神殿騎士さん達に護衛されながらラスラトールに戻る。リオネさんが居ることもあって、私達は割と高待遇でラスラトールまで戻ることが出来た。けど、問題はこの後だった。


「ま、魔族ではないか!!!」


 お出迎えと称して出てきた神殿騎士団長のクーラルさんが私に剣を突き付ける。あちゃー。そういえば、まだ隅々までは亜人種の話は広がってないって言ってたっけ。曰く、人を人とも思わないだの、人を見れば捕えて奴隷にするだの、無垢な者を生贄に捧げる邪悪な儀式を行うだの……それ全部人族の話じゃないの?実際、私は生贄にされかけたわけだし。聞いてたら無性に腹が立ってきた。私の周りで魔力が渦を巻いて爆発する。


「ひっ!?」

「謝罪せよ。魔族はルートレイア様がお作りになられた神の眷属の一員だ。」


 っと、危ない危ない、落ち着こう。リオネさんが庇ってくれたおかげで私の方は逆に頭が冷えちゃった。そうだよね、誤解から始まったことなんだから、誤解を解けば良いんだよ。それからリオネさんはクラールさんに亜人種の真実について語って聞かせる。話を聴くうちにクラールさんの顔が段々と真っ青になって行くのにはこんな状況だけどついつい笑ってしまいそうになった。いや、クラールさんも真実を知らなかっただけなんだし、真実を知った後はちゃんと謝ってくれたから、笑っちゃったのはちょっと悪かったかも。


「いやはや神殿騎士となり、神の使徒だと驕っていた部分もあるのでしょうな。」


 すっかりとしょんぼりしたクラールさんは私達にお茶を勧めながら恥ずかしそうにそう零す。話を聞いていた他の騎士さん達も私達が同じ神に創られた存在だと判ったからなのか、好奇心いっぱいに部屋を覗き込んでる。うわぁ、ちょっと恥ずかしいかも。なんだかちょっと落ち着かない気分で居心地悪そうにしてたら、クラールさんが咳払いを1つ。それで覗いてた騎士の人達はみんな持ち場に戻っていった。ふう、ちょっと安心。


「すみません、ご迷惑をおかけして。」

「いえ、ありがとうございます。それで……」


 覗いてた人達を追い払ってくれたお礼を言って本題に入る。問題は例の侵獣の扱いだ。ここの神殿の尋問室じゃ、ちょっとあの侵獣を閉じ込めておくには危険すぎるんだって。だから、領都のファルヘリオンにあるルートレイア様を祀る本神殿に持っていく必要がある。実は亜人を創った月の女神様の正体がルートレイア様だと知ってから、一度お祈りに行きたいと思ってたんだよね。それに、ナリュさんの目的地もファルヘリオンだったはずだし。


「ところで、お願いがあるのですが。ファルヘリオンまで件の侵獣を移送する際に護衛をお願いできないでしょうか。正直、この神殿の戦力では少々……」


 ファルヘリオンにはおそらくあの方に繋がる何かが居る可能性が高い。獣化症に感染したのもファルヘリオンだって言う話だし。だとすれば、たしかに戦力は多いに越したことはない。特に下級使徒のリオネさんが居るのが大きい。使徒と信者の間にはやっぱり大きな隔たりがあるからね。いや、リオネさんは殴りヒーラーだから微妙な戦力構成ではあるんだけど、それでもいざという時に神の降臨を乞うことができる使徒の存在は居るのと居ないのじゃ大違い。


「私は構わないのだが……」

「いま護衛依頼を受けている最中ですので、依頼人と相談させてください。」


 この侵獣から色々と聞き出すのは規定事項だからファルヘリオンに着いたら神殿に行くのは決定なんだけど、それでも依頼の最中に別の依頼を無断で受けるのはマナー違反。いや、今までにも散々やらかしてると言えばそうなんだけど、それでも無断っていうのは駄目。最低でも相談してからじゃないと。そんなわけで、今日のところはリオネさんだけが神殿に残って私達はナリュさんに相談だ。


「と、そんなわけで、ちょっと追加で護衛依頼をお願いされちゃったんですけど、どうしましょう。私としては可能なら見届けたいとは思っていますが、先約はナリュさんだから、ナリュさんがどうしてもダメって言うなら諦めます。」

「あー、私としては、構わないよ。騎士もいっぱいついてくるだろうから、野盗避けにもなるでしょ。」


 正直にゴメンナサイしてから事情を話す。ナリュさんとしてもそこまでデメリットはないからって快諾してくれた。まあ、どことなくお金の匂いを嗅ぎつけてる感も無きにしもだけど。そんなわけで、私達は決まったことを伝えるために神殿に向かう。その時に今夜は神殿に泊まらせて欲しいって頼む辺り、やっぱりナリュさんはちゃっかりしてるなぁ。


「いや、だって、タダで泊まれるチャンスだし、神殿って食事タダでしょ。」


 って言うのはナリュさんの言。まあ、神殿も無理を通してる自覚があるからかあっさりと快諾してくれた。……と思ったのは、ちょっとだけ甘かった。私とハルは同室にしてもらったんだけど、その部屋の前に集まった人、人、人。ざっと見ただけでも20人は居る。多いよ!


「あ、あの、部屋……」

「通れないんだけど、退いてくれるかな?」


 私が声をかけられずに居ると、隣に立ってたハルが代わりに主張してくれた。ハルは身長が高いだけあって、ちょっとだけ威圧感があるよね。あ、ごめん、うそうそ、ハルは可愛いよ。私の評価に明らかにしょんぼりしたハルを慌てて宥める。いや、ハルが可愛いのは事実だし!どうやら、故郷でも身長の事でからかわれててちょっとだけトラウマだったらしい。うん、うっかり言っちゃわないように気をつけよう。


 なんとかハルを宥めて部屋に入る。外に集まっていた人達はクーラルさんが追っ払ってくれた。こんな調子で大丈夫かな、明日。フードとか被った方が良いか、と割と本気で何か無いか目録を捲り始める私。いや、割と死活問題だって!だって、あんなにずっと見られてたら恥ずかしいでしょ。


「ルニアは可愛いから、良いよね……」


 ハルはまだトラウマ中みたいで、恨めしそうに私のほっぺをつんつんってつついてくる。いや、私も身長はちょっとだけトラウマなんだよ?集落じゃよくチビってからかわれてたんだから。まあ、ハルみたいに落ち込むほどじゃあないんだけどね。そんな話をしたら、やっとハルも笑ってくれる。よかった、さっきまで目に光が無かったからホントにどうしようかと思ってたんだよ。


「いや、身長の話になったから、つい。それに、威圧感とか言うからだよ。」


 まだ若干恨めしそうにそう言うハルに、ひたすらごめんって謝る。まあ、うん、言い過ぎた。それから私達はご飯を食べて、お風呂を借りる。そう、神殿にはおっきなお風呂があったんだ。やっぱ良いよね、お風呂。ハルだけじゃなくてナリュさんやリオネさんが一緒に入っても全然余裕なほど大きなお風呂で、私達はゆったりとそれを堪能した。ところで、部屋に戻る際に騎士さん達がみんな正座してたのはアレはなんだったんだろうね。

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