第2話 あまりにも酷い説明
「ここ、どこ?」
神様からいろいろと貰って地上に戻してもらったのは良いけど……ダメ、ここが何処かわからない。神様も戻すなら知ってるとこに戻してよね!地図でもあれば違うんだけど……そう思った瞬間に私の目の前に半透明の板みたいなのが現れた。なに、これ?触れようとしても触れられないから、幻術の類なのかな。っと、確か神様から説明書を貰ってるんだった。
「〈へるぷ〉。」
助けて、って意味っぽいけど、なんで助けてなんだろう。まあ、いいや。私の呪文(?)に合わせて画面に説明が出る。なになに、ふむふむ。どうやらこれは地図だったみたい。指でなぞると見える範囲が変わる、というので書かれてる通りに操作してみる。おお、便利。ええと、私の集落は……って、遠っ!?ここ、人間の領域を挟んで反対側じゃん!せっかくだから人間の世界を見て回りたい、とは言ったけど、まさかこんなとこに放り出されるとは。
聖王国じゃないのがせめてもの救いだね。聖王国なんかに放り出されたら、速攻で抹殺されちゃうよ。まあ、〈ちーと〉があるから逃げれると思うけど。で、とりあえず近くに街があるみたいだから、そこに向かってみる。ここはいっそ開き直って人間の街を見てみよう。……以前もそうやって捕まった私だけど、やっぱり好奇心は押さえられそうにない。今回はチートもあるし、きっとだいじょうぶ。そう信じて街へ向かう。
「止まれ。」
うん、そうだね。まず門で止められるよね。この世界には神様が作った『犯罪者判別装置』ってのがある。それに手を翳して問題ない人しか街に入れない仕組み。これは私達亜人だけじゃなくて、人間でもそう。そんな訳で、私も待機列に並ぶ。う、前の人なんか怖い。見た感じ商人なんだけど、なんと言うか、態度がすごく悪い。待たされるのが嫌いなのか、従者らしき少年に当たり散らしてる。最悪。
そんな嫌な時間もそこまで長く続くわけじゃない。我慢我慢。そう思って、できるだけ視界に入れないようにする。ただでさえ亜人ってだけで変な目で見られる。特にこの手の相手は差別意識も強くてろくな対応をしないのは捕まった時に経験済み。相手にしないのが一番。もう少しで私の番。目の前の商人が半透明の板のようなものに手を翳して……板が真っ黒に染まった。
「おい、てめぇ、こりゃあどういう事だ?」
商人が門番を睨みつける。板には赤い文字でつらつらと罪状が並んでる。えっと、なになに、〔〈ぱわーはらすめんと〉〕?板にはでかでかとその文字と、あまりにも数えるのが嫌になりそうな回数が表示されている。私はチートのおかげでそれの意味が判ったけど、門番も商人も意味がわからずに戸惑ってる。でも、黒くなったのは確か。少年の板は白になったので問題なく通れるみたいだけど、商人は当然駄目。それどころか、即座に門番に拘束される。
「この罪に心当たりはあるか?」
「あぁ?これが罪だってのか?」
そう問う門番に不機嫌そうに答える商人。〈ぱわーはらすめんと〉と書かれた下には細かな罪状が書いてあるので、そっちは理解できる。でも、商人はそれを罪だとは認識できないみたい。罪状を見ながら不快そうな態度を崩さない商人。心当たりはあるんだろうけど、それを罪だと認識してないっぽい。焦れた門番が「答えなさい」と返したところで、隣でビクビクと様子を見ていた少年が声を上げた。
「あ、あります!私は日常的にこの仕打ちを受けています!」
「てめぇっ!」
声を上げた少年に掴みかかろうとする商人。けど、商人は即座に門番に取り押さえられる。後で聞いた話だけど、ちょっと前から『犯罪者判別装置』にこの罪状が表示されるようになったみたい。神様が新しく罪だと定めたという話っぽい。とはいえ、チェックは街に入る時だけだから、他の街に行かなければこうやって捕まることはない。だから完全じゃないんだけど、それでもこういう不快な人を犯罪者として捕まえてくれるのはありがたい。
少年も神に感謝の祈りを捧げてる。加護をくれた神様もいろいろと改革中、って言ってたから、これからもっと良くなるに違いない。ちなみに、私は問題なく通ることが出来た。マギアレイスが珍しいのかちょっと怪訝な顔をされたけど、それでも通って良しとなったのだから問題ないのだ。ないったらない。どうやら、この辺りはあまり亜人差別はないみたい。
街は活気にあふれていた。人、人、人。何処を見ても人だらけ。ええと、まずは傭兵登録だっけ。傭兵って言うのは、ええと、何でも屋?みたいなの。私みたいな流れ者が手っ取り早く路銀を稼ぐのにはそれが一番、とは神様の言。世界を見て回るのにはお金がいるからね。そんな訳で傭兵協会に向かったのだけど……。
扉を開けた瞬間に集まる視線。う、なんかごつい人ばっかり。中には酒場と、掲示板と、カウンター。カウンターに居るのがお姉さんというのがどうにもミスマッチ。まあ、私にはどうでも良いことだけど。さっさと登録してしまおう、と私がカウンターに近付くと、その前に一人の男が立ち塞がった。革鎧に筋肉質な体、ニヤニヤとした笑いを浮かべた顔。この手のタイプ、私苦手。
「おいおい、何処に行くつもりだ、ニンゲンモドキ。」
私が避けて通ろうとしたのに、わざわざその進路を塞ぐように移動する男。鬱陶しい。その上、私をニンゲンモドキ呼ばわり。どうしよう、流石にイラッとしてきた。何様のつもり?……そう言えば、神様が〈へるぷ〉で相手の情報見れるようにした、とか言ってたっけ。せっかくだから使ってみよう。なにか弱み握れるかも。
「〈へるぷ〉。」
発動と同時に男の前に半透明の板のようなものが現れる。神様が〈すてーたす〉とか言ってたやつだ。えーと、なになに……。『強い者に逆らわず、弱い者からは搾り取る。人間のクズ。ここまでくるともはや更生の余地はない。早急に駆除すべし。』……って、神様っ!!?酷い、あまりにも酷い。えーと……。こういう相手なら、誰か助けてくれるんじゃないだろうか。そう思って周りに助けを求めてみるけど、みんな見て見ぬふり。うう、やっぱり人間は薄情。
「何わけわかんないこと言ってんだ、あ?」
私の発した呪文はもちろん相手には理解できない。ええと、ニホンゴ、だっけ?よくわかんないけど、異世界の言葉らしいからね。おかげで絶賛絡まれ中だけど。魔術でふっ飛ばすのは簡単だけど絶対に揉めそうだしなぁ。誰か助けて。いや、ほんと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます