生贄少女の冒険譚
焔数
第1話 生贄の少女
――失敗した。
今、私は檻の中。魔術の行使に長けた私達
ちょっと好奇心に負けて人里に出た私は、人間に見つかるなり追い立てられ、そしてあっさりと捕まった。いや、魔術で応戦はしたよ?でも魔術を封じる罠をうっかり踏んで鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるうちに人海戦術で捕まった。ずるいって、あれ。そんな訳で今に至る。まあ、人間くらい魔術でどうにかなるなんて簡単に思ってたのが敗因。
人間たちは私を遠巻きに見てる。どうやら私はよっぽど怖いらしい。月の光を映したような真っ白な肌に銀色の髪、そして、身体に浮かぶ薄緑の魔力線。私達の身体は他の種族に比べて特徴的だから、怖がられるのは解らなくもない。特に眼は暗闇で光を発するから、たしかに怖いかも。まあ、そうでなくても全員が魔術を使えるんだからかなりの脅威だけど。
強力な魔術を行使するマギアレイスは人間の間では恐怖の対象らしい。人間は私達を見かけたら死にものぐるいで襲いかかってくる、なんて族長が言ってたけど、あれホントだ。あの形相は怖かった。聖王国っていう人間の国じゃ、私達は神の加護を受けられない邪悪な種族ってことになってて、ユウセントウバツタイショウとか言うのになってるらしい。うーん、私達だって月の女神様に作られたちゃんとした種族なのに。
人間が魔術を使うには真名を取得する必要がある。私達マギアレイスは名神様の加護を受けてるわけでも、試練を受けたわけでもないから真名は持ってない。だけど、生まれつき魔術を使用できる。だから、人間たちは私達を侵獣と同じように思ってる人も多いらしい。侵獣みたいな世界の外から襲ってくるバケモノは、異術っていう魔術に似た術を真名も無しに行使するらしいから。でも、私達が魔術を使えるのは月の女神様の加護なんだから、侵獣なんかと一緒にされるのは流石に気分が悪い。
「おい女、出ろ。」
「むぅ、私にはルニアって名前があるんだけど!」
しばらく檻の中で過ごしていると、男が私を檻から連れ出した。それにしても、その言い方はないんじゃない?そう思った私は男に抗議してみたけど、聞く耳持っちゃくれない。どうやら、私はこれから五百年に一度のお祭とやらで神への生贄にされるらしい。邪悪な種族って言っておきながら生贄にってどういう了見なんだ、って感じだけど。とはいえ、魔術を封じる枷を嵌められた私は抵抗すら出来ずに祭壇に引きずられていく。祭壇ってのは火山の火口に作られた石造りの建物。無駄に作りが豪華。
「さあ、飛び降りろ。」
私を祭壇まで引きずってきた人間は、無慈悲にも私を火口に突き落とす。欠片のタメもなく、いきなり。酷い。圧倒的な熱量が眼前に迫る。怖い。あー、嫌だ、死にたくない。うう、こんな事なら人間の世界に来るんじゃなかった。後悔なんとやら、私は迫る溶岩に目を瞑って月の女神様に祈って、それから――
『あー、悲壮な覚悟をしていることろ悪いが、生贄は不要だぞ。』
声に気づいて目を開けると私は真っ白な部屋の中に居た。「ふべっ!」なんて女の子らしからぬ悲鳴を上げて地面に激突する。あ、そんなに痛くない。おでこをさすりながら立ち上がると、目の前には1人の人間……にしては神々し過ぎだね。黒髪の女性が1人立ってた。誰だろう、もしかして神様?
『一応、神といえば神だな。私はルートディーネ。この世界の最高神の一人だ。』
ルートディーネ、と名乗った神様は最高神らしい。確かに威厳あるかも。ってことはここは天国?って思ったら早速否定された。どうやら私はまだ死んでないらしい。月の女神様への祈りが届いたんだろうか。人間は実在を否定するけど、月の女神様はホントに居るんだ……。
『いや、喜んでいる所悪いが、月の女神は厳密には実在しないぞ。アレは、ルートレイアの別の顔だ。』
って、速攻で否定されたし!アバターがどうの、別名がどうの、って難しくて半分もわからなかったけど、どうやら月の女神様は光の最高神様だったらしい。私達マギアレイスや他の亜人達を作ったのはその光の最高神様で、私達が魔術を使えるのも最高神様の加護だったみたい。私達の声に応えてくれないのは忙しくて時間がないからだとか。神様でも忙しいんだ、それなら仕方ないね。でも、これからはジドーオートーとか言うのが動くから、月の女神様にも祈りが届くらしい。うん、さっぱりわかんない。
『君達には少々辛い思いをさせてしまった。特に君は生贄にされる等という悲惨な目に遭ったわけだから、地上に戻る前に私から幾つか特典を付けておこう。』
どうやら神様も作った後そのまま放ったらかしにしてたのを気に病んでたみたい。地上に戻る私に何か加護をくれるってことになった。〈あいてむぼっくす〉、とか、〈まっぷ〉、とか、私にはいまいちわからないのが多かったけど、とりあえずなにか力をくれるというのなら貰わないと損だよね。〈てんせいしゃ〉基本セット、と言うのがデフォで貰えて、それとは別に何か1つくれるみたい。で、選べ、とカタログを渡されたんだけど……ごめん、読めない。
『っと、悪い、基本セットを有効にしないと日本語は読めないんだったな。……これでどうだ?』
神様がよく解らないことを言いながらなにか板のようなものをポチポチと押すと、カタログの中身が読めるようになる。これは――多すぎてよく分かんにゃい。パラパラと捲って気になるのをピックアップしていく。そうして必死に読むこと数時間、ついに私は〈ちーと〉とやらを選び終わったのだった。……はげしいたたかいだった。
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