第16話 二つのイベント。

アミエルを先頭に到着した武器屋は、思った以上に綺麗な外装で、人の出入りも多かった。

どうやらかなりの人気な店らしい。


「よし。じゃぁいくか」

快斗のセリフを合図に、アミエルは今目の前を出てきた女とすれ違うようにして扉を固定した。

そのままアミエルは誘導するように快斗とコルティエラを中に入れる。


広さは凡そ30畳ほど。

至る所に武器台が置かれ、一つ一つ丁寧に武器が飾られている。

その周りを冒険者と思われる男女が行ったり来たりとしていた。


ーーー作りは良いけど、ただそれだけ、か。


一目見て快斗は落胆した。

この街一番の武器屋であれば自分が求めるラインには届かないものの、使用制限が50レベル以上の武器があると期待していたから。

鑑定眼をとっていないから正確には判別できていないが、どれもが2、30レベル代がマックスのように思える。


ーーー街の平均レベルだとそれが限界なのかなぁ。それ以上あっても意味がないのか。


若干テンションが下がる快斗は、せめて一周回ってから店を出ようと決める。


「カイト様、やはりそこまでの価値がある武器は見当たりませんね」

「…隊長、それを言っちゃかわいそう」

「お前達、せめて声を抑えてくれ」

近くにあった長剣、短剣、それに刀の様な武器など、様々な獲物を見て回っている最中に後ろから声がかかった。

ボソッとした声ではなく、それはもう堂々とした声だった。


アミエルの声に一瞬周りの聞こえた人が不快そうに眉をひそめたのを見て、思わず小声で注意する。

快斗も同じこと考えていたが、ここまでの勇気はない。


「…なぁ、嬢ちゃんよ。お前さん面白いこと言うじゃねぇか。ここのが価値がねぇって事は、もしかして王都出身か?」

「なんだ私の事か? 私は別に王都出身ではないが」

「へぇ、それにしちゃかなりの獲物を持ってるじゃねぇか」

立ち止まって居た快斗達に話しかけて来た人物がいた。

体格の良い、筋肉の鎧を纏っている様な外見の男だ。


アミエルに視線を向ける凶悪そうな笑みは、直ぐに彼女の腰に挿してある『空斬りバグノリオン』へと視線が向けられている。


「すみません、彼女も悪気があって言ってわけじゃないんです」

「あぁ? いや、別にイチャモン付けに来たわけじゃねぇよ。ただそこの赤い髪の嬢ちゃんもそうだが、隣の白髪の嬢ちゃんが持って居る杖、あれもかなりの代物だ。だからちょっと気になっちまってな」

「そうですか?」

快斗が思わず謝るためにアミエルの前に出るが、どうやら勘違いだったらしい。

彼の視線はアミエルの獲物から、コルティエラが持って居る杖、『繊細な瞳の杖』へと移る。

薄い赤色をした直径1メートルの杖に、頭部部分には大きな瞳型の宝石が埋め込まれている。

それを背中に縛りつける様にして持つコルティエラ。

これも先程快斗がプレゼントしたもので、刻印の効果は『使用MP1/10減』と、そこまで強いものではない。


「あぁ、実は俺は少し前まで王都で活動してたもんでな、あそこでもそうそう見れねぇしろもんだ。いったいどこで手に入れたんだ?」

「…これは友人が作ったものなんで、手に入りませんよ?」

「あ、あぁすまねぇ、変に詮索しちまったな」

実際は他のプレイヤーが売っていたものを買ったんだが、友人という方が今は都合がいい。それに少しタメを作って話し始めた快斗を、何か事情があるのかと勝手に勘違いし始める目の前の男。

すこし申し訳なさそうに言葉にする姿から、そこまで悪い人じゃないと快斗は認識を変える。


ーーー見た目は相当ゴツイし、顔は怖いんだけどね。


今まであった男達が厳つい顔立ちだったせいか、冒険者は皆こうなのかとすこし勘ぐってしまう。


「そういや、にいちゃん達はこの街には何しに来たんだ? もしかして帝国に行くのか?」

「いえ、違いますよ。ただの観光です。決まった目的もないので気分で移動している感じですね」

「ほぉ、観光か」

いつのまにか快斗の左右に控えていたアミエルとコルティエラを一瞥した男は、快斗へ向き直って手を顎に充てる。


コルティエラはいつもはぼんやりとした雰囲気ではあるが、兵士としての質に何ら疑いようがない程、快斗の安全を第一に考えている。


「なら、王都に行って見たらどうだ?」

「え、王都ですか? 行った事ないので行って見たいですけど、どうしてですか?」

「あん? なんだにいちゃん達、王都に行った事ないのか! じゃぁ丁度良いじゃねぇか」

目の前の男は驚く様に声を上げるとより一層笑みを深める。

そのあまりの凶悪さに一瞬快斗は身を引きそうになる。


「丁度良い、ですか? 王都で何かあるんですか?」

「まさかにいちゃん、『無秩序演武』と『王宮舞踏会予選』をしらねぇのか?!」

「え、えぇ知らないですが、っと、それ以上近づかないでください」

アミエルとコルティエラの我慢できる領域があるんで、という言葉を呑んで曖昧に伝える快斗。


快斗達が王都に行ったことがないと知った以上に、目の前の男は驚いていた。

どうやら随分と有名なものらしく、彼の瞳はいったいどう行った育ち方をしたのかと言ったオーラを放っている。


「それでその二つってどういったもなんですか?」

「これをしらねぇってのはちょっと驚いたが、良いか? この二つっていうのはな…」

それでも親切に目の前の男が説明を始めてくれる。


『無秩序演武(ディソードコロシアム)』とは、ドーラン王国で年に一回行われるイベントである。

簡単に纏めると、内容は単純に強さを競い、そして頂点を決めると言ったものだ。

文字通り相手を死亡させる攻撃をしないと言ったルール以外は、何もなく、武器の使用もあり、魔法もあり、の完全なバトルロワイヤルであるらしい。

年に一度のイベントであり、その上この試合で良い成果を残すと、王都の兵士指導者、もしくは王直属の私兵隊、『ロイヤルガーディアンズ』の候補として加えられる事がある。

元々は今の様に、国内の全体的な戦力アップに、優秀なものを選別して国王に仕えさせると言った意味合いが強く、昔は神聖なものであった。


しかし、時が経ち風習が廃れるにつれ、経済を回すイベント、民衆が喜ぶイベントと言ったとっつきやすい出来事になったそうだ。


そして『王宮舞踏会選抜』。

これは元々は国内から美女を集め、ある程度候補を絞ったのちに王宮で開かれるパーティに招き、将来の王族の妾候補を集めると言った意味合いが強かった。

当然選ばれるだけで金貨10枚という報酬がもらえ、そして妃ではなくとも妾に選ばれるのはかなりも玉の輿であるため美女の参加率は高かった。


しかし、戦争がなくなるにつれて、そこまで後継者を必要としなくなった今は、イベントの形だけが残され、王宮パーティの招待が名誉と言った形で落ち着いたのだ。

それで、それを見る民衆(男)は金を落とすために、『無秩序演武』とともに開催する事で、経済発展を目的とした一大イベントへと変わっていた。



「な? にいちゃんも随分と良い武器を持ってるが、嬢ちゃん達なら優勝候補間違いねぇ。それにその見た目だ。正直二つとも優勝をかっさわれても不思議じゃねぇ」

「確かに、それは大変面白そうなイベントですね」

男が確信を持って断言した。


快斗もアミエル達のレベルでは『無秩序演武』には自信がないが、『王宮舞踏会選抜』はかなりの自身も持っている。

今までアミエル達以上の美女を見た事がないし、顔に負けないほどに整ったスタイル。

負ける気がしない。


それに王都という魅力的な街に、イベント事。

少しゲーム時代の気持ちが疼き出す快斗。


「…アミエル、コルティエラ、王都どうだ? 行って見たいんだが、いいか?」

「勿論です。私はカイト様についていくだけです」

「…私も王都行ってみたいです」

傍にいる二人に尋ねた快斗は、一切の迷いもない二人の綺麗な瞳を見て決めた。


「じゃぁ、行こっか。王都へ」















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